数字が裏づける加害者更生の効果
性犯罪の場合、加害者にとって都合のよい思考パターンがもとになっていることがある。例えば女性が拒否をしていても「嫌よ、嫌よも好きのうち」などととらえてたり、2人きりで部屋に入ったら、性行為も同意したと思い込んだりする。
親密な間柄であっても、性暴力に結びつかない関係になるように、対人関係の築き方を学ぶ時間もある。また性犯罪の背景にはストレス要因があるため、悲しみや怒りといった感情を統制する訓練もしていく。
さらに、リスクが高い受刑者には、被害者の心情を理解するプログラムが用意されている。
「被害者の手記を読みます。こうしたプログラムは薬物や暴力の事犯でも取り入れていますが、性犯罪でも効果があります」(成人矯正課、以下同)
これは全国19施設で実施され、受刑者の必要なタイミングで受講する。期間は3段階に分けられ、リスクが最も高い場合は8か月、最も低い場合でも3か月といった具合だ。
「(刑罰の重さなど)罪名だけに再犯のリスクが表れるわけではありません。事件ごとに、個別に判断したり、加害者の生活歴を考慮したりします」
再犯抑止効果は数字にも表れている。プログラム受講者の再犯に関する報告書(’12年)によると、出所者2147人のうち、受講人数は約半数の1198人。3年以内の、性犯罪以外も含める再犯者は423人。性犯罪のみの再犯は224人で、およそ1割だ。
「再犯した場合、再度プログラムを受けることになりますが、焼き直しは意味がないため、不足している部分を重点的に行います」
仮釈放や保護観察期間の場合はどうか。仮釈放の期間が3か月以上なら受講義務がある。保護観察中の者を含み、2週間に1度、5回のセッションを行う。刑務所内と違いリスクの程度にかかわらず同じ内容だ。
「刑務所内で受けてきたという人もいますが、所内には被害対象となる女性がいません。机上で考えていることと、生活の中でコントロールできることは別です」(保護局監察課)
受講の結果、再犯率(最長4年以内)にも改善が見られるという。法務省の分析(’12年)によると、仮釈放者の再犯率は、受講者では22.6%と、受講していない場合の30%を下回った。保護観察付き執行猶予者でも、受講者は22%で、受講していない場合の35.6%を下回っている。
「全体の再犯率より低いですが、ゼロではありません。一生を通じて再犯しないことが目標です」(監察課)
東京保護観察所は法務省の建物内にある。性犯罪者処遇プログラムの受講は、刑務所から仮釈放になった人、保護観察付き執行猶予中の者などが対象。各回のプログラムは3〜4人のグループで行われる。プログラムを実施する保護観察官は、男性と女性の2人だ。
「1回目は個別面接をします。事件前後のことを細かく聞くことで、性犯罪に至るパターンがあり、単に性欲が抑えられずに衝動的に突然に事件を起こしたのではなく、事件に至るまでに段階があることに気づきます。それから4回はグループで、そのパターンに至らないようにするため、段階ごとの対処方法を考えていきます」(担当者、以下同)
性欲自体が悪いわけではなく、日常のストレスを性的なことで発散することが事件につながる。どのような認知や行動が犯罪につながっていたかを受講者自身に考えさせ、変えることで事件を防いでいく。
「例えば、“強引に誘えば女性は受け入れる”という認知で事件を起こした人がいたとします。そうした人は、“強引に誘うと女性は嫌がる”と真逆の認知をすぐに受け入れることは難しい。それは本当なのか問いかけたり、“受け入れる女性もいるかもしれないが、すべての女性が嫌がらないわけではない”と別の可能性を何度も考えさせたり、本人が受け入れられる範囲を探っていき、望ましい対処方法につなげていきます」
保護観察では、仕事を探して生活を安定させていく指導をしたり、地域のボランティア活動(社会貢献活動)に参加させたりすることで犯罪を繰り返さなくなった人もいる。
「ボランティアを通じて人間関係の輪が広がり、行動が変わりました。保護観察所はきっかけを作ったかもしれませんが、自ら活動に参加して世界を広げたのはその人自身です」