龍人さんが家族とともに日本に来たとき、吉村さんはディズニーランドへ連れて行った。子どもたちが乗り物に乗っている間、2人でベンチに腰かけて待っていると、龍人さんが「こんなふうに遊園地に一緒に来るなんて生まれて初めて」と言ったそうだ。
「この年になってそんなことを言われて、僕はがっくりきた。子どもたちには経済面では苦労させていないのですが、よそのお父さんのように子どもを海へ連れて行ったり、公園で遊んであげたりしたことがなかったから、寂しかったんだと思う。ごめんねと言ったら、いいんです、よくわかっているからと」
そんな龍人さんは、父をどう見てきたのか。
「両親が離婚したとき、私はまだ9歳でしたから、もちろんショックを受けました。でも父は私のところに来て落ち着かせて、いつも私と妹のためになるからと約束してくれました。それは今も続いています。
父のいちばん尊敬しているところは仕事への献身です。長年、一緒に仕事をしている生徒たちのこともとても大事にしています」
龍人さんは吉村さんから倫理観や独立心など大切なことのほとんどを学んだという。
「私は父の仕事がスムーズにいくようにできる限りサポートするつもりです。私の残りの人生において、どんなことでもして、彼を助けたいと思っています」
自己の研究生活を振り返り吉村さんが語る。
「50年、墓いじり、お砂場遊び、とか言われてきました。50年かけて100億円使いました。でも、私利私欲に使ったことは1度もありません。お金はいつも大変ですが、夢があればついてくると思っています」
発掘調査とは割り当てられた場所を掘るので何が出てくるかわからないが、発見されたものから歴史を読み解いていくのが醍醐味だという。
「人間というのはいろんなことが積み重なって文化になりますからね。偉そうな言い方になりますが、僕はいま文化をつくっているんです」
最終的に達成したい夢について尋ねると、明確な答えが返ってきた。
「クフ王の王墓を見つけることです。大ピラミッドはクフ王の王墓であるという説が根強いですが、本物の王墓を発掘して、世界の常識をひっくり返すつもりです。その日は確実に近づきつつあります。
そうして日本人はすごいぞと言わしめたい。これからも頑張りますので、みなさん応援してください!」
愛するエジプトのため、日本のエジプト考古学発展のため、発掘調査を志す後輩たちのため、まだまだ吉村さんは掘る! 掘る! 掘る!
取材・文/森きわこ 撮影/竹内摩耶
森きわこ(もり・きわこ)◎ライター。東京都出身。人物取材、ドキュメンタリーを中心に各種メディアで執筆。ラジオレポーターとしても活動中。13年間の専業主婦生活の後、コンサルティング会社などで働く。社会人2人の母。好きな言葉は、「やり直しのきく人生」