夫の前では、失語症のように声がまったく出なくなったんです。彼はそれが気に入らなかったのか、食卓を囲みながら、5歳の長男に向かって“今から、ママのマネっこゲームしよう”と言い始め、息子が“ハーイ!”と言ったら“ダメダメ。ママのマネっこなんだから話しちゃダメでしょう~”と。息子が一生懸命、両手で口を押さえて黙って、それを2歳と1歳の娘が笑っているのを見て、どうにかしなくてはと思いました」

 このころには長男の行動もおかしくなり、家の中のどこかに隠れて出てこなくなってしまうことがたびたびあった。あるとき、県の広報誌を見かけた露木さんは、その表紙にある「言葉の暴力もDVで法律で施行される」という見出しに目がとまる。

「言葉の暴力……? ピンときて、そこに書かれていた専門のホットラインに電話してみたところ、“かなりひどい状態です。今すぐ安心して住めるところに避難したほうがいい”と言われたのです」

 そこで、露木さんは夜逃げならぬ、“昼逃げ”を決行する。夫が仕事に出かけた直後に、実家に帰るため、必要最低限の荷物を段ボールに詰め、あらかじめ依頼していた引っ越し屋さんに一気に運んでもらったのだ。

 15年来のママ友である黒田季世子さんは、“昼逃げ”を手伝ったときのことをこう振り返る。

「当日、早く到着しすぎて、ご主人と鉢合わせになって焦りました。ガランとした家に戻ったご主人は何を思うかな? 露木さんとお子さんはこの先大丈夫かな? など、いろんな思いが交錯しました。いつも明るく振る舞っていたのでモラハラがそこまで壮絶とは思わなかったのですが、人知れず悩み、ひとりで乗り越えていたんだと。精神的に強い人だと思います

 慌てて夫は実家に迎えに来たが、時すでに遅し。露木さんは、夫と訣別した。結婚して7年後、2004年のことだった。それから2年後、2006年に離婚が成立した。

4人の子どもたちと。子育ても子どもたちの“自立”と“体験”を大事にしてきた
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 露木さんは、離婚が成立した年に再婚している。再婚相手は、高校時代の同級生。自分も相手もバツイチで、近所だったこともあり意気投合したのだ。2007年には、再婚相手との間に第4子を身ごもった。病床の父にそのことを報告できたのだが……。

「その翌日、父は帰らぬ人となりました。病気がちで入退院を繰り返していましたが、最後の親孝行ができたかな……そう思いたいですね」

 再婚相手は、一般企業に勤めるサラリーマン。温和な男性で仲がよかった。

「でも結婚してすぐ会社を辞めてしまい、退職金を元手にレストランを併設した熱帯魚のお店を始めたのです。厨房に立つことになって生活が一変。真夜中に帰り、3時間ぐらいしか寝ないで“仕込みがあるから”と早朝に出ていく。収入も安定せず、生活費が入らないこともありました。次第にお店で寝泊まりするようになり自宅に帰ってこなくなったので、結婚半年後には、ほぼ別居状態でした」

 結局、この男性とも2011年に離婚。現在、シングルマザーとして4人の子どもを育てている。