私は薬害被害者
向精神薬の副作用に詳しい医学研究所三光舎の長嶺敬彦医師は、今回の事態について、
「いまだにわからない病態は多い。しかしわからないからといって、医師が患者を見捨ててしまうのでは、病気で苦しむ患者さんはもっとつらいはずです。わからないのであれば、真摯にそれを告げ、どうすればいいか患者と一緒に考えてほしい。手を施すことができなくても、手を握ることはできるのです」
と苦言を呈す。さらに向精神薬の処方について、
「日本の精神科では、薬の処方量は世界的に見ても多い。多剤処方により起こる治療抵抗性統合失調症では、診断基準に運動障害である遅発性ジスキネジアが含まれます。近年では規定以上の処方をした場合には、診療報酬を減額する制度ができ、多少処方量も減少している。しかし処方量が制度で誘導されるのではなく、医師自ら患者の病態を推測して適正に向精神薬を投与することが大切です」
こんな病気があるなんて、こんな副作用があるなんて知らなかったという吉田さんは、「こんな危険なもの、安易に飲んだらいけんちゃね」
と自らを省みつつ、
「私は薬害被害者として医薬品医療機器総合機構の医薬品副作用被害救済制度の認定を受け、救済給付金があるからいい。でも、認定を受けられない人もたくさんいる。その一方で薬が必要な人もいます。だからこそ、ちゃんと副作用を知ったうえで適切に使ってほしいと思います」
と注意を呼びかける。
『ジストニア・ジスキネジア患者の環境改善を目指す会』の発起人である川島秀一さんは、患者が向かい合う現状を次のように訴える。
「瞼が閉じてしまい、開かないぐらい重い症状を抱えている人がいます。しかし、障害者手帳を取得することができないのです。なぜかと言うと、瞼を押し上げれば眼球は正常に機能するためです。病気の社会的認知も低く、苦しんでいる人は多数います」
医学の進歩により、新薬の開発も進んでいる。
その現状について、前出の林医師は、
「遅発性ジスキネジアの新薬の治験が進んでいる。来年ぐらいには承認されるのではないか。新たな治療法のひとつとしては希望が持てる」
と期待を寄せる。
たとえ治療薬ができたとしても、今回のケースのように心因性と診断していては、投薬されることはない。
「専門領域の医師が診察を拒否するというのではいったい、何の専門なのかわからない」と前出・長嶺医師が指摘するように、患者の訴えをすくい上げ、あらゆる可能性を排除しないことを患者は医師に期待している。早期対処ができていれば、吉田さんの場合はここまで被害が大きくなることはなかった。