自宅インターフォンを押すと
「母娘がほとんど周囲とのコンタクトをとれていない点が悲劇を生んだのでしょう。悲観的になったのか、カッとなったのかはわかりませんが、衝動的に犯行に及んだものと考えられます。63歳の女性が21歳の女性を手にかけるというのは、なかなかできることではありません。娘に一瞬の隙があったり、抵抗できそうもない状況など、特異な場面があったのではないでしょうか」と、井梅氏。
日ごろから言い争いが絶えなかった母娘。井梅氏は、
「母親が子どもを手にかけるのはわが子の将来を悲観した場合があります。自分が年老いてこの先どうなるかわからない、そんなときに自らの手で……と考えてしまうのです」
と、話す。
清水容疑者は働いていなかった萌さんの将来に絶望感を抱いていたのだろうか。
「男の子より女の子のほうが母親との距離は近い。過干渉になったり、親の言うことを聞いていたほうが幸せになれると考えてしまう傾向があります。無意識のうちに娘を自分の思いどおりにコントロールしようとしてしまうのです。しかし、思春期以降は、娘の人格や将来の夢、人生設計などが母親の考えることと別になる。それでも自分が教えることがいちばん、それに従わないとダメと頑なな母親は攻撃性が高くなります」(井梅氏)
2人をうまく引き離したり、萌さんが早く家を出てひとり暮らしをしていれば、こんな最終形を迎えることだけは避けられたかもしれない。
妻が娘を殺すという収拾しがたい状況の挟間に立つ父親は何を思うのか。
自宅インターホンを押して取材を申し込むと、「ごめんなさい、それはちょっと……」と、父親はインターホン越しに、消え入りそうな声で話すだけだった。