人心掌握に情報操作、家族を乗っ取ろうとする企みは、もはや詐欺と脅迫。もし自分の夫がこの手のプロに狙われたのだとしたら、法的解決を目指して、本気出して闘わねばならない。早めに録音や録画で証拠を残して、弁護士と興信所を探さねばならない。
あるいは、まりかの異様な固執と妄想癖と虚言癖は病的ともとれる。常軌を逸した狂気とは、どう闘ったらいいのか。相手は病気ですよ、と言ってもらちが明かない。まりかの夫も半ば突き放しているわけだし、誰に助けを求めたらいいのか。
つまり、効果的な対処法がまったく思い浮かばない。そういう意味で、まりかはホラー。現代のホラーに、怪奇現象や幽霊は必要ない。強欲な女がひとりいれば、たちまち日常がホラーとなるわけだ。
もちろん、まりか以外に糸を引いていると思わせる壇蜜の存在も気になる。絶妙なうさん臭さで里依紗に近づき、まんまと遠隔操作に成功する。お人好しというか、脇が甘すぎる里依紗&塚本に、イライラしながらも、この手の女たちにどう立ち向かうべきかを冷静に考えちゃう。
キュッパ感漂うまりかに切なさも
ま、そこまで真剣に考えるほどのドラマじゃないんだよね。とにかく、不倫の代償をどう払っていくか、夫婦が再生を目指すっつう心温まる結末になるんだろうなと、片尻上げて放屁するくらいの気持ちで見続けている。
おそらく、最後まで報われないであろうまりかに対して、やや切ない気持ちになる自分もいる。なんていうか、まりか、キュッパ感(1980円とか2980円という意味)が強いからだ。金持ちエリートの妻になったわりに、高級感やセレブ感が滲み出てこない。
どことなく漂うキュッパ感が、貧乏くさくて切ない。まりかが生き延びてきたこれまでの人生は、ドラマの中ではそんなに映し出されていないのだが、勝手に思いを馳せてしまう。
女友達が少ないせいか、服や持ち物で女に値踏みされる経験をしていない。男ウケだけ考えるならば、高級ブランドよりも安価な服でセクシーや可愛げを演出できれば充分。ひらひらでふわふわの白かピンクさえ着てりゃ、男は「女らしい」と思ってくれる。高いものは絶対に自分で買わず、男に買わせるのが当然。それが自分の価値と信じてやまず。
そんな妄想までさせるのは、すべてキュッパ感のせい。演出的には大成功ですよ、これ。ともあれ、松本まりか、すごいよ。今後も、ドラマでの暗躍と跳躍を祈る。
吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/