「亡くなった知らせを聞くと、桑田さんはその日の夜のうちに茅ヶ崎のMさんの家に駆けつけたそうです。
そして、『あっこちゃんち』の従業員女性と、これからお店をどうするかについてずっと話していたとか。桑田さんにとって、それほど、彼とこの店には思い入れがあったんですね」(前出・常連客)
それもそのはず。『あっこちゃんち』は、今でこそ多くの客が訪れにぎわっているが、開店したばかりのころは苦労していたという。そんなとき、手を差しのべたのが桑田だったのだ。
「店をオープンした当初、幹線道路沿いにぽつんとある焼き肉店にはなかなか人が集まらなかったそうです。それを心配した桑田さんが“俺の名前を使っていいよ”と言ってくれたそうです。
でも、あっこちゃんは彼の名前を使うことを躊躇(ちゅうちょ)していました。そんなときに、たまたま通りかかったファンが桑田さんから贈られた花に気づき、口コミでファンの間に広がったんですよ」(同・常連客)
今も店は休業が続いている。現在の状況を聞くため、Mさんの妻に話を聞いた。最初は驚いた様子だったが、取材の趣旨を話すと表情が和らいだ。
ーーサザンのファンから愛されたご主人でしたが、最近はお店の休みが増え、心配の声もあがっていましたね。
「はい。もともと毎週火曜が定休日だったのですが、3月からは月曜から水曜まで定休にさせていただきました」
ーーご主人の看病のため休みを増やしたのですか?
「はい、そうです」
やはり闘病を支えていたのだ。桑田についても質問したが答えてはもらえなかった。
「彼らの歌は少年時代から青春時代を過ごした茅ヶ崎の海が背景になっています。個人的な出来事がもとになっているからこそ、誰もが共感できるのではないでしょうか」(前出・音楽誌ライター)
桑田の記憶に残ったMさんとの多くの思い出は、美しい曲となってファンのもとへ届くことだろう。