そして事件は起きてしまった
男は'16年6月に出所したものの、同年9月にはまたしても窃盗の疑いで岩手県警一関署に逮捕された。それなのに、いつまでもアパートの退去手続きをとらないため、及川さんは家賃の支払いなどを求める訴訟を同年10月に盛岡地裁一関支所に提訴。その裁判に、手紙は証拠として提出された。
逮捕され、収監されても、いずれ出所する。その時期に及川さんが怯えていたことを、及川さんの同級生の女性の息子(50代)が聞いていた。
「今年の6月ごろ“もうすぐ刑務所から出てくるから”と心配していましたね。警察にも相談に行って、見回りをしてもらったり、防犯カメラをつけたりしていたのに……」
及川さんの嫌な予感は的中し、事件は起きてしまった。
捜査関係者が概要を伝える。
「及川ヨシコさんの知人から、及川さんと連絡がとれないと署に連絡がありました。一関署の警察官が訪問したところ、8月20日午前11時50分ごろ、遺体を発見しました。
自宅2階の寝室で布団の上に横になり、布団がかぶせられていました。首や胸などに10数か所の刺し傷があり、腕などにも防御創が認められた」
県警捜査本部は8月25日、殺人の疑いで無職・佐藤仁一容疑者(74)を逮捕した。その容疑者こそが、冒頭の変態ラブレターを送りつけていた張本人だ。
佐藤容疑者は8月15~16日、殺意を持って及川さんの頸部、胸腹部などを鋭利な刃物で執拗に突き刺し、失血により死亡させて殺害した。凶器は見つかっておらず(9月1日現在)、容疑についても否認しているという。
今年8月から佐藤容疑者は、及川さん宅から徒歩2分、直線距離で約150メートルになる別のアパートで生活をはじめた。及川さんが殺された直後、平然と地区の区長のところにあいさつに来たという。
「“今度こちらに越してきましたのでよろしくお願いします”ということでした。服装もキチッとしていたし、疑うところは特になかったですね」
区長を務める70代男性は振り返る。ただ……と付け加える。
「部屋に上がったとき、キョロキョロと周囲を見渡して、落ち着きのない人だなとは思いました。やっぱりおかしい人だったっちゃね」