「今年1月ころにA子さんが“先生のお金が止まったままなので、ハンコを押してくれないと動かせない”と子どもたちを集めたんです。会社には従業員がいますし、それはマズいと思って受取人が空欄と気づかないまま、書類に実印を押してしまったんです」
銀行口座だけでなく、そこには平尾さんの印税や著作権を管理するJASRAC(ジャスラック)の相続同意書も。
「ジャスラックの書類は、1人だけが相続する『単独用』と、兄弟などの複数人が受け取れる『共同用』の2種類があるんです。でも、彼女は『単独用』しか出さず、しかも承継者の欄は空白のまま、ハンコを押させたんです」
A子さんが“ひとり占め”
さすがにおかしいと思った兄弟たちは代理人を入れ、独自に調査を始める。
「ジャスラックに問い合わせて初めて2種類の書類があることがわかったんです。しかも、A子さん側にちゃんと2種類の書類を渡していると。兄貴たちも目が点ですよ。そのことを兄弟で指摘したら、彼女はフテくされて“私のことを信じないの”みたいな感じで、いっさい謝罪の言葉はありませんでしたね。
財産分与に立ち会った問題のK弁護士は“A子さんは魔が差したんですかね”って。父の印税関連の収入って毎年1億円くらいあるんです。すべてがジャスラックからではないですが、もし放置していたら、A子さんがひとり占めですよ」
著作権は死後50年間保護される。年間1億円だとすると、50億円もの遺産を彼女が独占していた可能性もあったのだ。寸前のところで兄弟たちは『共同用』の書類に書き換えることができた。
また、不可解な株の動きも、彼の不信感をさらに高めた。
「父はマネジメントのための個人事務所『平尾昌晃音楽事務所』(以下、音楽事務所)と、著作権などを管理する『エフビーアイプランニング』(以下、F社)という2つの会社を持っていたのです。そこには、F社が筆頭株主で音楽事務所を支配するという構図があったのですが……」
音楽事務所の発行済株式総数は2万株。3000株は平尾さんが持ち、残り1万7000株をF社が所有することで、音楽事務所に影響力を及ぼす大株主の形になっていた。
「そもそも、財産分与の段階でA子さんはF社の存在を明かしていなかった。しかも、彼女が結婚した5年ほど前に、F社が持っていた音楽事務所株1万7000株を、850万円で音楽事務所が買い戻し、自己株にするという不思議な動きがあったんです」
実は港区に社屋としてある5億円の物件と、昌晃さんと彼女が住んでいた港区の3億円のタワーマンション(ともに市場価値)は、音楽事務所の持ち物。無借金経営で売り上げを加味せず、所有資産だけで計算しても8億円の価値がある会社だ。前述した50年間の50億円を足せば、遺産は約60億円。
「そんな会社の8割以上の株式をたった850万円で買い取っているんです。本来なら、音楽事務所からF社にその対価として6億円ほど支払わらなくてはならないはず。
それを、A子さん主導で行っている可能性が出てきたのです。これは明らかに音楽事務所をF社の支配から外すための策略ですよ。こんなことが許されるわけがない」