また、遺産の行く先だけがトラブルの原因ではないということも。司法書士の大石さんは、いま抱えている案件をこう話す。

「故人の葬儀費用を喪主が“立て替え”ました。しかし式後、ほかの相続人は分割には応じないと言い出したんです」

 この場合、あまりに豪華な葬儀を喪主ひとりの考えで行ったなど、通常の葬儀の範囲を超えているとみなされなければ、喪主はほかの相続人に分割請求することは可能だという。

「このケースは葬儀費用が100万円ほどかかり、相続人は4人でした。分割するとそれぞれ25万円くらい。裁判を起こして費用を請求すれば、おそらく徴収できると思いますが、4人それぞれに裁判を起こすと費用もかかります。

 葬儀費用を見積もったとき、それぞれがいくらずつ分割するという証明をわれわれが作って、そこに署名してもらっていれば何の問題も起こらなかったんですけど」

評価額の2倍で姉が妹に土地を売りつける

 最後に、大石さんはありがちな不動産の扱いを指摘し、注意を促す。

「これもいま抱えている案件なのですが、父親の土地に妹が家を建て、あとで父親がお姉さんに土地を生前贈与してしまいました。

 姉は結婚を機に引っ越して、離れた場所でお互い生活していたのですが、父親が亡くなったあと、妹が姉に自分の家が建っている土地を売ってほしいと頼んだところ、1000万円の評価額の土地を2000万円じゃないと売らないと姉が言い始めたんです。

 土地の所有者は姉なので、いくら高い値段をつけても問題はありません。その解決を私のところに依頼してきたのですが、もう2年以上、争っています。相続でもめるのは、疎遠になったきょうだいなのだ、と痛感した案件です」

 もともと仲がよかったという姉妹なのだが、今では裁判で争う仲に。相続に関しては、いくら仲がよくても、口約束だけでなく、書面で権利関係をはっきりさせておくことが、トラブルを避ける最良の方法なのだろう。


〈PRIFILE〉
高橋創さん
高橋創税理士事務所所長。無料相談サイト『税とお金の相談室』(http://namahage-tax.jp/contact/)近著に『いちばん親切な税金の本』(ナツメ社)

浜田裕也さん
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。『働けない子どものお金を考える会』のメンバーで、ひきこもりやニートなどの子どもを抱える家庭の相談を受けている