1回戦をポイントで10点差以上つけて勝利、2回戦もフォール勝ち。決勝戦は3分34秒でフォール勝ちし、3試合とも格の違いを完全に見せつけての完勝となったレスリング女子、五輪4連覇の伊調馨(34)。
2016年リオデジャネイロ五輪以来、2年2か月ぶりの実戦となる全日本女子オープン選手権の57キロ級に出場して、優勝を果たした。
4連覇を達成したリオ五輪後は、現役を続行するか引退かの判断を保留してきた伊調。そして、今年の1月、元強化本部長の栄和人氏によるパワハラ問題が発覚した。
3人へのリベンジ
第三者委員会によって伊調も被害を受けていた1人として認定を受けた中、春頃から試合を見据えた練習を始めてきたという。
「オリンピック以降は、所属先の広報部でデスク業務などもこなしていて、現役選手に戻る気がないのでは、と思った時期もありました。パワハラ騒動後に、そんな伊調を一番奮い立たせたのは『そもそも選手なのですか?』という至学館大学の谷岡郁子(64)学長の一言だったようです」(レスリング関係者)
公の場に姿を現さなかった伊調は、ロングヘアーをバッサリと切ってマットに戻って来た。レスリング関係者が続ける。
「編み込みをするなど、ロングヘアーにこだわっていた彼女がショートにするなんて、強い意気込みを感じます。2年前の筋骨隆々とした時に比べれば、やや細身に感じましたが、試合展開は全く問題ありませんでしたね」(レスリング関係者)
リオ五輪の時には、女子レスリング界を共にけん引してきた53キロ級の吉田沙保里(36)が決勝で敗れる中、伊調は母トシさん(享年65)の死を乗り越え、女子個人種目で世界初となる4連覇を達成した。
五輪後には国民栄誉賞を受賞。伊調のメンタルの強さ、そして集中力にはすさまじいものがあると、スポーツ紙記者が言う。
「その吉田沙保里も栄コーチ側の人間ですからね。栄コーチの解任後、至学館大学のレスリング部は、谷岡学長に託されています。吉田は選手兼コーチという役割をしていますし、引退後の至学館幹部への道は約束されています。
そんな吉田は騒動の時も自分は知らぬ存ぜぬで、伊調を擁護することもなく一言も発言しませんでした。伊調にとってこの大会の結果は、栄コーチ、谷岡学長、そして吉田沙保里へのリベンジでもあり、東京五輪へつなげる大切な試合だったのです」(スポーツ紙記者)
五輪までの道のりの険しさを知るだけに、大会後の会見では「そこまで気持ちを作れていない部分もある。五輪へは覚悟が必要」と言葉を選んだが、「100%の環境を整えつつ(状態が)上がってきたと思えるなら、見えてくると思う」と続けた。
その目に宿る闘志に、衰えはなかった。
<取材・文/宮崎浩>