7月25日に行われたTNR活動で、不妊・去勢手術を施した猫は135頭。中谷さんが言う。
「不思議なことですが、猫嫌いはTNRに賛成してくれましたね。ところが、“間違った猫好き”ほど反対するんです。かわいそうだ、って」
前出・冨永所長も同様の意見だ。
「メスの不妊手術(の必要性)は、みなさん理解されています。ところが、特に男性の方に多いのですが、オスの去勢手術は反対だという。なぜか自分に置き換えて考えるようで(笑)」
不妊・去勢手術を施され、もといた場所に戻された猫の耳は、桜の花びらのようにV字型にカットされている。TNRを終えたという目印だ。そんな地域猫たちは4、5頭ごとのグループに分かれ、別々の縄張りで過ごしているという。
地域猫活動への周囲の反応は?
地元住民は、地域猫活動をどのように見ているのだろうか?
「いいことだと思うよ。以前は猫に餌をあげている人と言い合いになるとか、猫を何十匹も飼っている人とケンカもあった。少し前までは野犬も多かったので、猫が殺されるどころか、ケガをする女性もいたほどです。その野犬の群れも捕獲されていなくなったし、猫にとってはいい環境じゃないですか」
とは、前出の60代男性。地域猫に会うのを目当てに、週末ごとに決まった場所を訪れているとか。
「飼っていた猫が死んじゃって、もう飼うつもりはないけんね。餌は勝手にあげるとよくないから、あげていないけど」(60代男性)
同じく市内から来ているという70代女性は、「家でも飼っているんじゃけど、こっちのほうも可愛らしゅうてねぇ。2か月に1回は来ていますよ」と目を細めて話す。
四国から車で2時間かけて、年に4回ほど来ているという夫婦には“推し猫”がいるという。猫と遊んでいる妻を見ながら、40代の夫は「あの子が可愛くて。一種のファンです」と、にこやかだ。
いまでこそ“猫の街”として、猫たちを観光資源にしている尾道だが、以前はほかの地域と同様、ノラ猫対策で住民が真っ二つに分断したときもあった。しかし地域猫は、住民の間でもおおむね好評のようだ。
地域猫活動に伴い尾道市では、餌をあげる人への指導、飼い猫にも不妊手術を呼びかける啓発のほか、希望者への猫の譲渡といった取り組みも行われている。
もとはといえば、ノラ猫が増えた原因は、自分の都合で安易に捨ててしまうような人間がいるから。ブームに踊らされることなく、ひとつの命として向き合う覚悟がひとりひとりに求められている。