舞台は身近なスーパー
スーパーマーケットが舞台なのも井上さんの好みによるところが大きいそう。
「普段からスーパーに行くのが好きなんです。棚を見ながら歩いて新商品を発見したりするのって、楽しいですよね。
それに、会社の形態としても本社のほかに店舗、倉庫、工場といろいろな部署がありますし、雇用形態も正社員、派遣社員、パートと多様ですから。
いい意味での雑多な雰囲気がおもしろいのではないかと思いました」
本作の主人公・秋津渉は53歳。中年の男性にしたのには、こんな理由があった。
「今はたったひと言で仕事を失ったり飛ばされたりする、失敗が許されない時代だと思うんです。だからこそ、失敗したことがある人をしっかりと描きたかった。
そのためにも若者ではなく、人生を背負って失敗して家族にも文句を言われた経験があるような年代の男性を主人公にしようと思いました」
本作では、セクハラやパワハラから、育休を取ろうとする男性を妨害したりするパタハラ(パタニティー・ハラスメント)など、多くのハラスメントが登場。
「ハラスメントをされて困っている人や、疑われている人をめぐる話を書こうと思って調べはじめたのですが、予想以上にハラスメントがあることに驚きました。
例えば、女性の部下に“彼氏いるの?”と聞いただけで“ラブハラ”だと訴えられる可能性があるんです。すべてを深刻に受け止めていたら息が詰まってしまいますよね。
でも、実際にパワハラに苦しんでいる人にとってはおもしろ半分にとらえてほしくない。本当に難しい時代に、みんな頑張っているんだと思います」