ビーティは、「彼は長い間よくやってくれた」「この役で彼はずっと人々の記憶に残るだろう」とも語った。まさにそのとおりだが、デップ本人にしてみたら、そうあっさり割り切れないはずである。

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キャリアは下り坂、私生活もボロボロ

 2015年のトロント映画祭での記者会見で、デップは、「興行成績は、僕にとっても最も関心がないこと。この仕事を始めた19歳のときから、ずっとそうだ」と語っていた。

 それはおそらく本音だろう。だからこそ彼は、『シザーハンズ』『デッドマン』『ラスベガスをやっつけろ』など、ユニークな映画でキャリアを積んできたのだ。

 その頃のデップは、有名ではあるがスターではなかった。2003年の『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』が、彼の立ち位置を突然変えたのである。

 ここまでのビッグスターになることを、本人は決して望んではいなかったのだが、そこからの6年ほどは、彼のキャリアの黄金時代となった。

『チャーリーとチョコレート工場』『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』『アリス・イン・ワンダーランド』などはいずれも大成功。毎回違うルックスになることは、デップのクリエイティビティを満たしてもくれている。

 一方で、『ネバーランド』『パブリック・エネミーズ』などシリアスな映画では、演技力を証明した。この間に、彼は、3度のアカデミー賞候補入りを果たしている。『ツーリスト』だけはアメリカでこきおろされたものの、それくらいの失敗は可愛いものだ。

 その間、彼のギャラもインディーズ時代よりずっと上がった。高いギャラをくれるのは、客を呼んでもらえると思われているからで、そこには新しい責任が加わる。なのに彼は、2012年以降、『ダーク・シャドウ』『ローン・レンジャー』『トランセンデンス』など、期待された主演作を、ことごとく失敗させてしまった。

 ここ3年は、さらにひどい。6000万ドルをかけた『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』(2015)の北米興行成績はわずか700万ドル、1億7000万ドルをかけて製作された『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(2016)も、たった7700万ドルで、大損だ。

 カメオ出演だから一緒にするのはかわいそうではあるが、アンバー・ハード主演の『London Fields』は、訴訟問題で3年経った今ようやく公開された揚げ句、拡大公開作としてはアメリカで史上2番目に低いオープニング成績だった。

 さらに今年、北米公開予定だった『City of Lies』(製作中は『LAbyrinth』と呼ばれてきた)は公開中止になっている。とにかく、ひとことで言うなら、デップはスランプにはまってしまっているのだ。

 そうやってキャリアが下り坂になっても、お金の使い方は変わらなかった。それがさらにイメージダウンという追いうちをかけることになる。