平成最後の九州場所で初優勝をした貴景勝。一夜明け会見で笑顔を見せた(写真/共同通信社)

 大相撲九州場所で、小結・貴景勝(22)が、13勝2敗で自身初の幕内優勝を果たした。

 2017年の初場所で新入幕を果たしたが、場所前には長年所属していた貴乃花部屋が消滅。急きょ、千賀ノ浦部屋に移籍し、この九州場所を迎えた。

 小結の優勝は2000年夏場所の魁皇以来、史上9人目。初土俵から26場所での優勝は、年6場所制になってから4番目のスピードだ。今場所は3度目の殊勲賞と2度目の敢闘賞も獲得した。

「貴」乃花と「景」子さんが「勝」つ

 この日は、貴景勝が幼少期から二人三脚で相撲道を歩んできた、実父・佐藤一哉さんの思いもひとしおだったはずだ。

 貴景勝の本名「貴信」は当時、現役の横綱だった貴乃花から1字を取ってつけられたほど、一哉さんは貴乃花親方に思い入れが強かったという。貴乃花親方のファンだっただけに、部屋が変わっての優勝は複雑な思いだったことだろう。

 新入幕と同時に、それまで本名のままだった四股名を上杉景勝にちなんで貴景勝光信(たかけいしょう・みつのぶ)」へ改名したが、この「景」の文字が入ったことで、当時、一番喜んでいたのは、当時のおかみさんであった景子夫人だった。

「ちょうど2年前ですね。後援会関係者からも『貴乃花と景子が勝つで貴景勝。いい四股名だな』って言われていました。それを聞いたおかみの景子さんも、嬉しそうにしていました。

 実は今回、親方の事情で貴乃花部屋から千賀ノ浦部屋に移籍してしまいましたが、移籍後も景子さんは貴景勝がかわいいんでしょうね、わざわざ大好物を送っていたと聞いています」(元貴乃花部屋関係者)

 それは、貴乃花部屋時代におかみさんの景子さんが、宮崎県の実家から黒にんにくを送ってもらい、素揚げにして塩で味付けをしたものだという。

貴景勝は、このにんにくの素揚げが大好物で、部屋が変わってしまい、もう食べられない、と嘆いていたそうなんです。それを聞きつけた景子さんは、今場所でも変わらず力が出るようにと、貴景勝に届けたそうですよ。

 親方と貴乃花部屋を興し、部屋のおかみさんとなって親方と一緒に育ててきた、思い入れのある力士が優勝したのは、はじめてのことですからね。それが、部屋が消滅して離れた矢先とは、皮肉なものです」(前出元貴乃花部屋関係者)

 その思いが一番強いのは、師匠だった貴乃花だろう。

 本来ならば、宿舎で鯛を持った貴景勝を景子さんと挟み、酒の注がれた銀の大杯とともに記念撮影におさまっていたはずだ。その姿をテレビで観戦する側となった親方の思いは計り知れない。

<取材・文/宮崎浩>