獲った肉の現状
罠にかかった獲物にナイフを入れるとき、その思いがさらに強くなる。
前出・安田さんが初めてとどめを刺した際の戸惑いを、
「こん棒で頭を叩いたのですが、考えるところがありました。思考を停止させないと感情移入してしまう」
と振り返りつつ、現状をこう伝える。
「ナイフで放血させる場合は、頭をこん棒でたたいて気絶させてから、肺動脈か頸動脈にナイフを入れます。獲物に意識がない状態で行うことを心掛けています。そして自分が手掛けたものは、自家消費、イベント、販売など何かしらで消費しています。ただ、狩猟で獲った肉の9割が捨てられているのが現実です」
郡上市では、鹿を駆除すると1頭当たり1万4000円が役場から支給され、猪の場合は猟期(11月15日~3月15日)のみ同額が支給されるという。
ここ数年、ジビエ料理を出すレストランが各地に増えているが、最終的に私たちが目にし、口に運ぶのは、きれいに盛りつけられ、おいしく味付けされた最終形だけ。
そこに至る過程――罠や銃で獲物を仕留め、解体し、ジビエ料理を食べるまでを、すべて“見える化”して提供するのが、『猪鹿庁』が設定する猟師の衣食住の体験ツアーや動物の解体の体験ツアーといった狩猟ツアー。責任者として率いているのが前出・安田さんだ。
「参加者は20~50代までまちまち。親子で来る方もいます。岐阜を中心とした東海3県から5割、残り5割は東京や大阪、青森や岡山からの参加者もいました」
と、世代も参加地域も年々広がりを見せているという。