非を認めない・決して謝らないオジサン
さらに、船越の問題点は続く。殺人事件に対する自分の見立てに異を唱えた錦戸に対して、怒鳴り散らしていた船越。事件の真相がわかり、自分が間違っていたにもかかわらず非を認めないし、謝らないのである。
この手のオジサンが職場にいることの問題点は、俺様体質が伝染してしまう可能性があるということだ。
船越の部下・矢本悠馬は、この怒れるオジサンが刑事のあるべき姿として傾倒してしまっている。
実際、科捜研の面々にぞんざいな口をきいていた矢本を見て、「ああ、こうして悪しき伝統が受け継がれてしまうのか」と不安になった。妙に自信たっぷりで、「俺の背中を見て学べ」みたいなオジサンは、信用しないほうがいい。
最後にちょっとだけ船越を擁護するとすれば、過度のストレスで精神的に不安定という可能性もある。
検挙数ノルマの締め付け、一人暮らしで不規則・不健康な日々、睡眠不足に飲酒過多。人望もなさそうだから、友達も少なく、愚痴をこぼしたり甘えたりする相手もいない(部下の矢本がつきあわされている)。
その不穏なサインが見えた瞬間もあった。
事件の真相がわかり、幼少時からずっとDVを受けてきた被害者女性の人生に思いを馳せた船越は、突然、涙ぐみ始めたのである。え、こんだけ周囲にパワハラしといて? と思ったら、その直後に大笑い。
錦戸の見立てが間違っていた箇所がひとつあると知って、大笑いする船越。ちょっと大丈夫? 船越の感情の乱高下に一抹の不安を覚えたのである。
今後も船越は怒鳴り散らして、暴言を吐き続けるのだろうか。だとしたら、サブタイトルは『~科捜研の男と怒髪天の男~』にしたほうがいいかも。
吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/