心地のいい人間関係
5作目の『愛でなくても』は、新婦の早紀が視点人物となり、壮絶な過去と新郎との出会いが明かされる。この作品の中には、新郎の次のようなセリフがある。 《人を妬んだり憎んだりはするけど、あらためて祝福することって滅多にないよね。(中略)たぶん自分を浄化するために、人の幸せを祈っているんだよ。その儀式が結婚式なのかもね》
「心から誰かを祝福するのって、心地がいいですよね。その心地よさは、小説を読んで泣いたり笑ったりしたときと同じで、自分が浄化されることで得られる感覚だと思うんです。私が結婚式に出席するのが好きな理由も、ここにあるような気がします」
中江さん自身にも、誰かを妬んだりひがんだりする瞬間があるのだという。
「自分の状況に応じて、人のことがすごくうらやましく見えることってありますよね。私なんて、つらい気持ちのときはデパートの地下食品売り場を歩いているだけで、“みんな幸せそうだな”って思ってムッとすることがありますから(笑)。でも、それは単なるひがみだということも、自分ではわかっているんです」
中江さんは、人間関係をテーマの根幹に据えて小説を書いているという。
「結婚はひとつの幸せのカタチとされていますが、結婚によって苦しんでいる人も意外と多くいますよね。新しく結ばれた人間関係によって、これまでにない不穏な物事がもたらされることもあります。
どうして人間は、幸せになろうとして苦しんでしまうのか。その原因のひとつは、人間関係の近さにあると思うんです」
心地いい人間関係について考えた結果、次のような答えにたどり着いたという。
「例えば、学生時代の友達とは、久しぶりに会ってもすぐに当時のような空気感になるし、次に会う約束をしなくてもあっさりと別れることができます。そういう友情関係って、すごくラクですよね。
だから、家族をはじめ、いろいろな人と友情に近い感情で付き合えたら、すごくラクだなぁって思うんです。そうした思いを込めてこの小説を書きました」
ライターは見た!著者の素顔
中江さんが今、いちばん興味があるのは5歳の甥っ子さんなのだそう。
「お正月に一緒にトランプで遊んだんです。私、一緒にトランプができるのがうれしくて、普通に本気で遊んでしまい、2回連続で勝ってしまったんですね。後になって、いつもはみんなが手加減して、甥っ子を勝たせていることがわかって焦ったのですが、結果的にはよかったみたいです。甥っ子に初めて負けを教えるという、貴重な役割を果たすことができました(笑)」
(取材・文/熊谷あづさ)