「私はこの村で生まれ育ったわけじゃないので、それほど戻りたいとは思わなかったんですが、主人が“どうしても戻るんだ”と。戻るか家族で決める前に、勝手に村の広報誌に『ゑびす庵は帰村する!』と宣言しましたからね。嘘をつくわけにもいかないので」
と福島県相馬郡飯舘村の老舗うどん店「ゑびす庵」の女将・高橋ちよ子さん(70)は豪快に笑う。かたわらで夫の義治さん(72)は、
「店はオヤジが桶屋をやめて65年前に始めたうどん屋だったし、村はこうなったけど、やっぱり愛着はあるからねぇ」
と照れながら笑った。店内では女将のちよ子さんが前面で仕切っているように見えるものの、要するに夫唱婦随の仲睦まじい夫婦だ。
真っ先に村に戻った
同店の名物はうどん。義治さんが打つ手打ち麺は歯ごたえがよく、さっぱりとしたしょうゆベースのだしとよく合う。1番人気は山菜や野菜など具だくさんの五目うどん(税込み950円)で、2番人気が肉うどん(同700円)だ。
同村は福島第一原発事故の影響で全村避難を余儀なくされた。'17年3月31日、ようやく避難指示解除が出ると、真っ先に村に戻ったのが高橋さん夫婦。6年ぶりに村で店を再開した第1号の飲食店だった。
「福島市の郊外でも店をやっていたんですよ。でも、仮住まいがストレスで胆石と膵炎で1か月も入院しました」
と、ちよ子さん。
最初の帰村は100人程度だったが、
「お父さんが“店を開けていれば、誰か来るんじゃねぇか”っていうから。私も働いてないとイライラする性分だからね」(ちよ子さん)