常識や概念が変わっていった

 ヒット作には、フジテレビの月9だけでなく、TBSや日本テレビが違う角度からアプローチした作品も混ざるように。主要ドラマはほぼ視聴しているというライターの吉田潮さんは、こう分析する。

平成前期のテーマは“男女関係の絶望”じゃないですか? 恋人や夫婦間のもろさ、結婚したからといって必ずしも幸せにならないというメッセージ性のある作品が目立ちます。不倫ブームの火つけ役は『失楽園』('97年、日テレ月10)。意欲作、問題作も多く'93年なんて『悪魔のKISS』(フジ水9)『高校教師』(TBS金10)『誰にも言えない』(TBS金10)『同窓会』(日テレ水10)。もう、カオスですよ(笑)」

 '95年には阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件という歴史的な出来事が相次いで発生。

「科学技術では抑えられない自然の脅威。人間がやるはずがないことを、実際にやったという恐ろしさ。常識や概念がひっくり返り、日本人の意識下をじわじわと変えていったんです」(碓井教授、以下同)

 だが、フジの月9は変わらず『ラブジェネレーション』('97)のような恋愛ドラマを量産し続ける。

「視聴者は明るい月9の恋愛ドラマを、もう『東京ラブストーリー』のころと同じ気持ちでは見られなくなっていたはず。実際、習慣や惰性で見ていたのでは? しかしフジは“まだ行ける”と突き進み、時代の空気とズレてしまった。そこが成功体験の怖さであり、フジのドラマが最盛期から下っていった背景だと思います」


《PROFILE》
影山貴彦教授 ◎同志社女子大学メディア創造学科教授。毎日放送のプロデューサーを経て、現職。専門はメディアエンターテインメント論 

碓井広義教授 ◎上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。テレビマンユニオンに20年以上在籍。近著に倉本聰との共著『ドラマへの遺言』(新潮新書)

吉田潮さん ◎ライター、イラストレーター、テレビ批評家。主要番組はほぼ網羅している。『週刊女性PRIME』で『オンナアラート』を連載中