こうした小さな王子さまの中には、平然と“東京に大地震が来てもかまわない”と答えた子どももいるそうだ。
“地震があっても自分の家にはお金があるので北海道にでも逃げればよい。そうすれば大好きなウニ丼を毎日食べることができる”などと、そんな感覚でいるのだという。
こうした子どもに、タワマンの住環境がボディブローのように影響を与える。
「タワマンの住環境は、室温は一定で常に快適な状態を保っていますよね。すると季節の変化を感じない。真冬の身が縮むようなつらさも、春や秋の心地よさも感じない。さらには高層階であることから窓が開かない部屋も多く、風のそよぎや木の葉のこすれる音などに耳を傾ける機会も限られます」(西村さん)
自然と切り離された環境は、特に小学生には想像以上の影響を与えるという。
「季節の移ろいや自然の音は、五感を刺激して、子どもの心情を豊かにし、知識を収納する基盤になっています。こうした基盤がない子どもは状況を想像することができません。これは理科を教えるとてきめんに表れます。
大事なのは外遊びで培われる「身体感覚」
例えば『道ばたの植物』という学習計画があったとして、“道ばたには背の高い植物が多い? 少ない?”と聞いても、見たことがないからわからない。道ばたの植物は踏まれることが多いから、背の高い植物は成長を続けることができません。
こうしたことは勉強しなくてもわかっていなければいけないのに、経験が少ないから知識として覚えさせなければならない。何から何まで覚えさせなければならないため、結局、受験には間に合わなくなります」(西村さん)
小学生時代に自然とのふれあいが大切なのは、たとえ中学受験をしなくても、あるいはタワマン居住でなくても同じだという。なぜならば、幼児期から小学生時代に得た身体感覚と生活知識が、それ以降の学習と人生の基礎となるからだ。
では、わが子を“小さな王子さま”や“人の痛みのわからない子”“常識的なこともわからない子”にすることなく、成績が伸びる子に育てるにはどうすればいいのか?
「お母さんの役割が重要です。学力が伸びるときの子どもは、一様に快活で楽しげです。
その楽しさは何から来ているかというと、自分が努力しているとお母さんが笑顔で喜んでくれるから。お母さんが喜んでいる顔がうれしい。もっと喜ばせてうれしくなりたい。そうした“感動と快感”で学力が伸びるのです。これが持てた子どもは、王子さまにならないし、人の痛みもわかる。お母さんは決して“ミニお父さん”になってはいけないのです」(西村さん)
住環境の改善についても、手の施しようは十分あるという。
「タワマン高層階居住では日照も問題です。特に西向きの部屋はよくない。朝日が入りにくいことから体内時計が狂って、朝、起きられなくなるからです。こうしたご家庭は、調光器のついた照明、特に色温度が調節できて、昼光色とか電球色など、自然の日差しの移ろいをなぞれるものにしてください」(西村さん)
だが、こうしたこと以上に大切なことがある。
「それは安全な公園を探し、お子さんを自由に遊ばせることです。遊びの指導は決してせずに、そこで日を浴び、風を感じて、ときには転んで足をすりむいたり、汚いものを触ってみたり。それがいちばん大切なのです」(西村さん)
タワマン高層階に住む懸念点を挙げてきたが、わが子の成績を向上させたいのは誰しも同じ。では、成績のよい子に育てる方法って、あるのだろうか?
「まずは“成績がいい子”を目的にしないこと。成績がよくなればそこで終わってしまうからです。ですから、“成績がよくなる子”“必要なときに必要な成績をとることができる子”にすることを目標にしてください」(西村さん)
学力とは「ピラミッドのようなものだ」と西村さん。底辺には身体能力ともいうべき『見る・聞く・感じる』があり、そのうえに読み書き計算などの基礎能力、そしてそのうえにこれらを利用して問題を解く応用力があるという。
「応用力も身体感覚の土台の上にあるものですから、幼児期はまずこれを養成することが大切です。幼児期から学習教室に入れるより、野原で遊ばせるほうがずっといい。
そして、お子さんをいろいろなところに連れていって、一緒に感動をしてください。例えば、動物園で白クマが水に飛び込んだとします。“水しぶきがすごいね!”と言えば子どもは水しぶきという言葉を自然に覚えます。要は“勉強させる”ではなく、一緒に感動すること。感動や豊かな経験は身体感覚そのもの。成績がよくなる子をつくる、もっとも大切な基礎です」(西村さん)
子育てにぜひ活用したい。