男子ソーシャルの底意地の悪さ

 さて、もうひとつ。これはドラマの中の装置のひとつなのだと自分に言い聞かせてはいるのだけれど、どうしても気になることが。女子が少ない農業高校で唯一の女友達・よっちゃんこと居村良子(富田望生)と、なつの関係である。

 よっちゃんはふっくらした体型で、当然のことながら充分、自覚もしている。なつは親友のはずだが、よっちゃんの繊細なハートを何度となく傷つけているのだ。オンナアラート鳴らすよ、これは。

 まず、学校に遅刻したなつが、その理由をみんなの前で話すシーン。仮死状態で生まれた子牛に人工呼吸したことを説明するのだが、よりによってよっちゃんを牛に見立てて、再現したのだ。

 男子と人工呼吸するわけにいかない乙女心と配慮はわかるよ。わかるけど、牛をやらされるよっちゃんの乙女心がどれだけ傷ついたか、わかる? よっちゃんはオトナ対応で乗り切るが、その夜、きっと枕を濡らしたに違いない。

 しかし、その後もよっちゃんは何かと牛に例えられる。

 なつのせいで、演劇部に巻き込まれるも、はなから裏方採用を決めつけられる。全員の衣装を必死に作ったよっちゃん。そして、舞台にも立ったのだが、なんと白装束で白蛇役である。舞台上では「牛じゃないよ、白蛇だよーん」とおどけて笑いをとるよっちゃん。もう私は涙ナシに見られなかった。

 男子ばかりの演劇部、顧問も男性。なつもある意味、共犯で、男子ソーシャルにおける無意識の区分けと役割分担に異議を唱えない。その底意地の悪さにゾッとした。

 そんな中でもよっちゃんは自分の責務を果たし、しかも道化役も自ら引き受けたのだろう。よっちゃんの気持ちが痛いほどわかる。思春期のこういう傷って、本当は根が深いんだぞ。無事に公演が終わったあとで、よっちゃんが「気持ちよかった~」と笑顔だったのは救いだったけれど。 

 大人ソーシャルと男子ソーシャルの中では、無意識のうちにうまく立ち回る、なつ。こういう女の子が女だらけの女ソーシャルに入ったら、さぞや大変だろうな、と余計な心配をしてしまうのだ。

 いや、善人ぶった書き方だな。こういう女、個人的には好きじゃない。つうか苦手。つうか嫌い。批判覚悟で自分の思ったことを素直にぶちまける夕見子、小さな傷を常につけ続けられて自虐に走るよっちゃんに、つい思いを寄せてしまうのである。

 主役の今後を老婆心ながら心配させて、脇役の思いや生きざまにも寄り添わせる。つまり、ドラマとして大成功。面白いってことですよ。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。週刊誌や新聞で連載をもち、幅広く執筆。『Live News it!』(アレコレト!コーナー、月・火・金)、『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。著書に『産まないことは「逃げ」ですか?』など。6月に『親の介護しないとダメですか?』(KKベストセラーズ)、7月に『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)刊行予定。twitter @yoshidaushio