日本代表、そして母として
若い世代にとって理想のモデルになりうるママさんアスリートの頑張りに励まされている40代以上の女性は少なくないはずだ。
荒木選手は母に深く感謝しつつも、「和香に少し先回りして教えすぎるところがある」と言う。ただ、意見の相違はそれくらいで、子育てをめぐる衝突はほぼない。何事もお互いにストレートに言い合うガラス張りの関係を築けているからこそ、この体制が成り立っている。四宮さんも「バイタリティーとエネルギーに満ちあふれたあのお母さんに任せておけば大丈夫」と笑顔で太鼓判を押す。
娘夫婦から絶対的な信頼を寄せられる母は、
「“年間300日もよく自分の娘を任せられるね”と2人に言ったことがありますけど、それもひとつの生き方なんでしょうね」
と笑顔を見せた。
東京五輪まで500日を切った。2019年度の全日本女子も4月21日から東京・西が丘で始動。荒木選手はもちろんメンバーに名を連ねた。「自国開催の大イベント前年ですから、今年は何日拘束されるかわからない」と本人も言うように、もしかすると半年近く全日本の合宿に参加する可能性もある。
となれば、愛娘とはより一層、離れ離れの日々を強いられるが、「和香もいつか自分が夢中になれるものを見つけてほしい」と荒木選手は母親の顔をのぞかせた。
4月24日に行われた記者会見時に、中田監督は改めて大きな期待を寄せた。
「お子さんのことも考慮しつつですけど、荒木も特別扱いは望んでいない。自分が全日本にいる意味をしっかり理解してチームに還元してくれると思います」
荒木選手もその役割に全力で取り組みながら、母としての責任も果たそうとしている。
「今年の夏休みはサマースクールに入れることも家族で話し合わないと(苦笑)。和香も大変だと思うけど、いつか自分が夢中になれるものを見つけてほしいですね」
背負うものがあるからこそ、頑張れる─日本バレーボール界の肝っ玉母さんのド根性を東京五輪の大舞台で見せつけ、伝統種目を再びメダルへと導いてほしい。
取材・文/元川悦子(もとかわえつこ)1967年、長野県松本市生まれ。サッカーを中心としたスポーツ取材を主に手がけており、ワールドカップは'94年アメリカ大会から'14年ブラジル大会まで6回連続で現地取材。著書に『黄金世代』(スキージャーナル社)、『僕らがサッカーボーイズだった頃1・2』(カンゼン)、『勝利の街に響け凱歌、松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか