とはいえ、後悔もある。

 結婚式に既婚女性の式服である留め袖でなく、ツーピースを着ていったことだ。

「つい最近になって“和行、留め袖を着てほしかったんやろなあ”と思いました。あの子、卒業式に着物着ていったらすごく喜んだし。私が着物を着たりしてキレイにしているの、好きやったんです」

 式には親戚は呼ばなかった。

「親戚には声もかけなかった。兄夫婦にも、東京の姉夫婦にも、言うてもいない。声をかけたらきっと来たと思います。考えたらかわいそうに」

 吉田さんにも後悔が。

「おばあさんには説明したかったんだけど、80代後半だったから“今さら言うのも”というのもあって……」

 人生には、なんでもないことができなかったり、踏み出すことをためらうことがしばしばある。そしてずっとのちになって“なんでそうしたんだろう?”と自分自身をいぶかしむ。

 2011年と'19年とでは、わずか8年でありながら、時代も考え方も、大きく異なる。2人の思い残しも、そうしたもののひとつなのだろう─。

息子が3人いる感じ

 結婚式後の2013年、2人は所属していた弁護士事務所から独立、共同で大阪の南森町に『なんもり法律事務所』を開設した。現在、ヤヱさんはここに木曜を除く週4日勤務、2人の仕事をアシストする毎日を送っている。

 仕事中は両弁護士を“南先生”“吉田先生”と呼ぶ。だが、仕事を離れれば、親子だ。

「長男の輝行とで、息子が3人いる感じ。あの夫夫は和行が引っ張っているように見えるけど、ホントは吉田くんが引っ張ってると私はにらんでる(笑)。いい夫夫ですよ」

 母親というものはとかく、息子の配偶者は癪に障るものらしいといいますが……?

「吉田くんにはないねえ。でも、たまに2人の学生時代の女友達が子連れで遊びに来て、吉田くんにだけ料理を作らせていたりすると、“吉田くんにばっか作らせて!”って。ああ、これが姑根性ってやつか、って(笑)」

 そして、息子の夫にこう言って目を細める。

「吉田くんのお母さんに、今の吉田くんを見せてあげたいと思いますわ。息子さんは立派で優秀、そしてやさしい息子さんに育ちましたって」

 幸せな結婚に、異性婚も同性婚もない─。

 ヤヱさんの心の旅の到着地、ここに極まる。

2019年3月、事務所でヤヱさんの誕生日を祝った 撮影/齋藤周造
2019年3月、事務所でヤヱさんの誕生日を祝った 撮影/齋藤周造
【写真】和行さんと吉田さんの結婚式、理解を深める兄と母の友達、ほか

取材・文/千羽ひとみ(せんばひとみ)ドキュメントから料理、経済まで幅広い分野を手がける。これまでに7歳から105歳までさまざまな年齢と分野の人を取材。「ライターと呼ばれるものの、本当はリスナー。話を聞くのが仕事」が持論