燃焼するものであれば基本的に何を着せて(上から掛けて)もいいのです。病床生活が長かったため、昔の服はほとんど捨ててしまい、残っているのはスーツ2着とTシャツ類のみ。スーツ2着のうちどちらにしようか迷っていたのですが、「やっぱりTシャツが一番自然な感じがする」と誰からともなくそんな意見が出て、最終的には薄いピンクのTシャツと短パンが旅立ちの衣装ということでまとまりました。

 靴については、「ビーチサンダル!」と家族全員一致。そこで段ボールを足の裏にあて、型をとって切り取り、それを全面ピンクで塗り水玉模様を入れました。出棺時、棺の蓋を開けて段ボール製サンダルを見た参列者の顔から思わず笑みがこぼれたそうです。

 正敏さんの葬儀にかかった費用は食事や当日返しを含めておよそ70万円。葬送儀礼は簡素ながらも、このように遺された人がそれぞれの思いを胸に、故人への思いを表出した印象的な儀式となりました。

 過去2回の経験を生かしたことで納得のいく葬儀になったのはいうまでもありませんが、イザというときに慌てて探すのではなく、余命宣告をされたときに覚悟を決め、自分たちの思いを実現できる葬儀社を選んだことがポイントとなったと思います。

「葬儀社選び」は難しい

 しかし今、その葬儀社選びが大変難しくなっています。冠婚葬祭互助会、葬儀専門業者に加え、平成に入って電鉄系、農協、生協なども葬祭業に参入し、フランチャイズも増えてきました。

 前述したネット系葬儀社も新興勢力のひとつ。葬儀は一生を通じて何度もあげるものではないうえ地域による違いが大きいことから、商品・サービスの比較検討が難しく、葬儀会館などのハードや価格にどうしても目が行きがちです。

「よい葬儀社の見分け方」といった情報も氾濫していますが、その基準に達していたら合格、合致しないから悪い葬儀社というわけでもありません。基本的なことですが、事前にリサーチしておくことが納得のいく葬儀をあげるための最善の方法といえるでしょう。


吉川 美津子(きっかわ みつこ)◎社会福祉士 葬儀・お墓・終活ビジネスコンサルタント。(一社)供養コンシェルジュ協会理事、(一社)葬送儀礼マナー普及協会理事。駿台トラベル&ホテル専門学校、上智社会福祉専門学校非常勤講師。大手葬祭業者、仏壇・墓石販売業者勤務を経て独立。コンサルティング業務のほか、葬送・終活関連の人材育成に携わっている。また福祉職として、介護・福祉と葬送・供養をつなぐ活動を行っている。『葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』『お墓の大問題』『死後離婚』等著書多数。「吉川美津子のくらサポラジオ」(レインボータウンFM)毎週日曜日放送中。