移り変わる“多様性の街”の姿
長年、この街を見続けてきた伏見さんに、街の変化を聞いてみた。
「僕が初めて来たころに比べると、まずもって街全体が明るくなりましたね。以前は、店の中に人はいるけど、路上を歩いている人は少なかった。みんな自分の姿を見られたくなかったんですね。ところが、今では週末ともなれば仲通り(靖国通りと甲州街道を結ぶメインストリート)は人出でにぎわい、ハロウィンの夜なんかは、女装やマッチョなど、渋谷のスクランブル交差点か、というくらいですからね」
伏見さんの店の客層は、7割がゲイで、あとの3割が他の性的マイノリティーやストレートの男女というゲイ・ミックス・バー。
「かつては、二丁目に出入りすることは他人には絶対知られたくないことだったのが、現在ではLGBTに対する認識や人権意識も広がったのと、ある種の“観光地”としていろんな人が集まるようになりました。女装の客引きが目につくようになったのも、最近ですね」
さらに、インターネットの発達やゲイ向けのアプリなどが開発され、もはや出会いは、ゲイバーなどでなくても可能となり、わざわざこの街に足を運ぶ動機は薄れているらしい。
伏見さんの店でも女性客は多い。多くは一般のOLである。
「女性にとって、二丁目は居やすい場所なんです。自分が性的な対象として見られずにすむから気楽になれる。中には、マツコ(・デラックス)さんの影響か説教をしてほしい、なんて女性も結構いる。ゲイバーのコミュニケーションって、自分のマイナスのカードを出し合うゲーム。ダメな自分を出せるかどうか。自虐ネタですね。これはもう文化といってもいい」
女性客の中には、勘違いの人もたまにいるらしい。
「“なんでチヤホヤしてくれないの”なんてのもいる。そういうときは“ここはホストクラブじゃない、君が僕を楽しませる店なの”と言ってあげる(笑)。ブス呼ばわりされても楽しめるようじゃないとダメですね」
自分の個性を持て余している人が自由になれる場所でもあるらしい。
「ほかの場所では生きにくいと感じている人、自分は自分であるはずなのに、自由になれないと感じている人が、この街では自由になれるのかも。多様性の街ですからね。家庭でも会社でもない“サードプレイス”、本当の自分でいられる場所が見つけられない人たちが安らげる。もしかしたらそういう機能も求められているのかもしれませんね」
ライターは見た!著者の素顔
ふしみ・のりあき 1963年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。評論家、小説家。東京・新宿二丁目にあるバー『A Day In The Life』経営者。同性愛問題やジェンダーなどの論客として活動。『プライベート・ゲイ・ライフ』、『魔女の息子』、(第40回文藝賞受賞)など著書多数。『クィア・ジャパン』編集長も務めた
取材・文/小泉カツミ