「2クール連続で放送されている前半の最終回で主演だった原田知世さんが殺されてしまう。最近のドラマにはない“刺激”がありましたね」
そう話すのは、ドラマウォッチャーの田幸和歌子さん。田中圭が主演するドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系、以下『あな番』)は、マンションの住人たちが次々と殺人ゲームに巻き込まれていくサスペンスドラマ。一時期は6%台まで落ち込んだが、後半の最新回では11%台と視聴率があと伸びしている。
「登場人物や伏線が多くて一見、複雑そうに思えるんですが、実はシンプル。いま放送されているストーリーは、簡単に言えば妻を殺された夫の“犯人捜し”ですし、物語を振り返るシーンもあって途中から見ても追いつける仕組みを上手に作っています」(田幸さん、以下同)
後ろ姿だけでも“特別なオーラ”
第2シーズンとなる後半からは田中の相棒役として横浜流星が加わり、出演者数は総勢30人以上。演技派の俳優が並ぶ中、ひときわ異彩を放つのが301号室の住人“尾野ちゃん”役を演じる奈緒だ。
「世間が奈緒さんのことを知ったのは、昨年放送の朝ドラ『半分、青い。』でしょう。ポニーテールにリボンをつけて、永野芽郁さん演じる個性の強いヒロインの脇にいるかわいい親友役でしたが、『あな番』では田中さんや横浜さんに執拗につきまとうストーカー役。このギャップがインパクトをより強めている気がします」
奈緒の魅力は“尾野ちゃん”役に集約されているという。
「この役には危うさ、ウエットな色気、一途さといった彼女の魅力が盛り込まれています。最初から“この子、絶対ヤバイ”という空気を醸し出していましたよね。何をしでかすかわからない純粋さゆえの狂気が、視聴者をゾクッとさせているんだと思います」
この演技力のルーツは、どこにあるのか─。奈緒が脚本家・野島伸司が監修を務めるアクターズスクール『ポーラスター東京アカデミー』の門をたたいたのは、'16年の春。同アカデミーの西原龍煕代表はこう話す。
「毎回、オーディションとなると数百人ぐらいが受験するので、数日に分けて審査します。その日は最終回で、控室に50人くらいが集まっていました。みなさんが前を向いて座っていて、私は後ろの扉を開けて、中の様子を確認したんです」
だが、西原代表は扉をすぐに閉めて、審査員のひとりである野島のところに行ってこう伝えた。
「“先生、次の回にはちょっと違った子がいますよ”とお伝えしました。後ろ姿でも特別なオーラを放っていたんです。それが奈緒でした」(西原代表)
審査員の全員一致で授業料が免除される特待生となった奈緒。学校で演技指導を行っていた景山慶一さんには、忘れられない思い出があるという。
「初めて会ったのは、演技のレッスンスタジオでした。ほかの生徒たちとともに奈緒も自己紹介をしたのですが、あの透き通った声で“みなさん、カレーはお好きですか?”から始まったんです(笑)」
“尾野ちゃん”がしそうな発言だが、この唐突なひと言でスタジオにいた全員の心をわしづかみにしたという。女優の仕事が徐々に入ってくるようになると、景山さんは彼女に“ある欠点”を伝えた。
「“どうやっても主役になっちゃうね。相手役を立てなくてはいけないシーンでもすぐ奈緒に目がいっちゃう”と。彼女も“あなたはどうしても主役になってしまうからという理由でオーディションを落とされた”と話していました」
だが、その圧倒的な存在感が今回の怪演ぶりにつながったのだろう。
プライベートでは、誰にでも無防備な笑顔を見せてしまうところが魅力だという。
「人を惹きつけ、そして安心させるんだと思います。だから彼女の周りには常に人が集まっている感じでしたね」