ひとり身の女性が感じる“引け目”
府中市の霊園には、ずばり『女性のための共同墓』という名のお墓が20年前に建てられ、すでに約40人が入り、450人が生前契約していた。運営はNPO法人『SSSネットワーク』で、「ネットワークをつくって充実したシニアライフを」とお花見会、食事会、終活講演会などの活動をしている。40代から90代まで約900人の会員がいて、『女性たちの共同墓』は活動の中から生まれた。
生前契約をした国分寺市に住むフリーランスのデザイナーの津村いつきさん(仮名=62歳)がこう言った。
「好きな仕事をしっかりしてきたと自負していますが、どこかに引け目を感じるんです。もし、弟が継ぐ実家のお墓に入ったら引け目が大きくなります。私はひとりで自由に生きてきたんだから、お墓も自由に選んでいいでしょう?」
お墓は、「今」の時代を映す鑑(かがみ)だ。
家族形態も価値観も多様化が進むなか、女性を取り巻くお墓事情は、ここまで進んでいる。キーワードは、「脱家」と「個人化」だろう。「最後に自分が眠る場所を自分で決めて、確保できた安心感が大きいです」という言葉を幾人もから聞いた。
【文/井上理津子(ノンフィクションライター)】
井上理津子(いのうえ・りつこ)
1955年奈良県生まれ。タウン誌記者を経てフリーに。著書に『葬送の仕事師たち』(新潮社)、『親を送る』(集英社)、『さいごの色街 飛田』(新潮社)、『遊廓の産院から』(河出書房新社)、『大阪 下町酒場列伝』(筑摩書房)、『すごい古書店 変な図書館』(祥伝社)、『夢の猫本屋ができるまで』(ホーム社)などがある。