褒められるとうれしいから忘れない

本ですから、一応いろいろ言うけどね。言うけど、そのことを聞いちゃいけない、真に受けてくれるな、みたいなトコもある。俺はもちろん、年寄りはろくなことを言ってないんですよ

 東京生まれの東京育ちの人は、こんなふうに照れるのだ。そんな大竹さんに「15の話の中で、好きなものは?」と聞くと、

「う~ん、どれだろう」としばし迷った後に、

「井上陽水さんの歌から始まる『傘がない』はジャーナリズムの話を書きました。いつも何も言ってくれない編集さんがちょっと褒めてくれて、褒められるとうれしいから忘れないね

 と言い、

「その次に書いた『国家に翻弄された民たちの物語』の中の映画の話、『オン・ザ・ミルキー・ロード』もよく覚えています。政治が不安定だったり、戦争だったりしても、人が心を揺さぶられるのは文化の中にあることなんだと、この映画を見て思ってね。俺のような文化から遠い男が言うのもなんだけど

 と続けた。

 タイトルの『俺たちはどう生きるか』の答えは、明確には記されていない。けれど、大竹さんの言葉は、その余韻で何かを感じさせてくれる。それだけで十分だ。ひとつだけはっきりとしたことは、「いい大人になっても迷いは尽きない」らしいということ。それはそれで、大竹さんからのゆるっとしたエールにも感じる。

ライターは見た!著者の素顔

 大竹さんの直筆原稿も収録されている本書。

 「字も汚いし、漢字も書けないし。若いころに1度フライデーをされたときの言い訳が“女の子に漢字を教わっていた”(笑)。ホテルで何の漢字教わってたんだ! って言われたけどね」。 

 12年続くラジオ番組収録後のインタビューだったが、当日のゲストは作家の山崎ナオコーラさん

 「書くってどんなこと?」という質問に「パンツを下ろすことです」と答えた山崎さんの言葉を聞いて、直筆原稿掲載についても納得。読者はもちろん、子どもや夫、身近な人とともに読みたい1冊。

(取材・文/池野佐知子)

『俺たちはどう生きるか』(集英社)大竹まこと=著 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
【写真】柔らかな笑顔で取材に答える大竹さん
【PROFILE】
●おおたけ・まこと 1949年、東京都生まれ。1979年、斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』を結成。不条理コントで東京のお笑いニューウエーブを牽引している。2010年、映画『シティボーイズのFilm noir』では脚本・監督を担当。現在、文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ!』、テレビ朝日『ビートたけしのTVタックル』ほかに出演。