裁判員制度で「ココがよくなった」

 一方で裁判員の資質には不安はなかったそう。

「実際に始まってみると、裁判員の方々は非常にまじめな方が多かったですね。私自身、もともと、“日本人は一生懸命に裁判員をやってくださる方が多いんじゃないかな”というイメージは持っていましたが。

 というのも、わざわざ裁判所まで候補者として来て、選ばれたら何日間も続けて審理に立ち会って、他人の刑を決めるという作業は決して楽ではありませんからね。そんな大変なことに、自分の大切な時間を割こうとしてくださる方々なんですから」(小森田判事)

 評議が紛糾したり、量刑が極端に重くなるようなケースも、「記憶にない」そう。

「みなさん、“裁判員としてきちんと務めよう”という気持ちがすごく強いんです。本当に真剣に、事件と向き合ってくださっているな、と感じます。もちろん、その事件や被告人に対する怒りとかそういう気持ちがある方もいると思うんですが、真剣だからこそ、その気持ちを持ちながらも、一方で、冷静に考えている方がほとんどだと感じます」(村田判事)

 裁判裁判が始まったことにより、現場の裁判官たちも刑事裁判がよい方向に変わったことを感じている。

 最大のよい変化は、裁判が、わかりやすくなったこと。これは“公判前整理手続”の導入による効果が大きい。

「これは“この事件のいちばん大事なポイントは何であるのか?”ということを、あらかじめ、検事、弁護人と打ち合わせを行うことで判断するポイントを絞り込んでから裁判を始めるという仕組みです。裁判員と一緒に審理するときに、無駄な審理をしないよう“必要ない証拠はなるべく出さない”ようにするんです。裁判員の負担軽減という意味においても大切」(小森田判事)

 裁判裁判では全件、この公判前整理手続がとられているが、波及効果により刑事裁判全体で審理がスピーディーに正確になった。

「以前は、検察官がたくさん出してきた証拠を、裁判官が全部見て判断していたわけですが、その中には、必ずしもこの事件の判断には必要でない証拠も出てきたりすることがあったり。だから、まず、“その証拠が判断に必要かどうかを、判断する”二重の手間がかかっていた。今は、そういうことがないようになりつつある」(小森田判事)

裁判裁判って“見て、聞いて、わかる裁判”と言われたりもしますが、たしかに誰にとっても……裁判官にとっても、わかりやすい裁判になりつつあるのかな、と。証拠をモニターで見ながら検察官の説明を聞くことができるようになったことで、“こういう事件だ”と理解して、有罪か無罪かというのを法廷の中で考えられるようになってきました」(村田判事)

 これは判断する側だけではない。被告人自身も、法廷で証拠が映し出されるモニターを見られることで、

「“なぜ自分が有罪になるのか”“なぜこの量刑なのか”が、以前よりも被告人自身にとってもわかりやすく伝わりやすくなってるのかな、と思います」(小森田判事)