初めて信頼できる大人との出会い
すえこさんは佳奈のその後を追い大阪に向かう。仕事はいいかげん。部屋はぐちゃぐちゃ。門限を破るなど約束を守れない。結局、佳奈は寮を出されてしまう─。
顔にはぼかしが入り、声も変えられているが、少女たちの葛藤や心の揺らぎが痛いほど伝わってくる。
すえこさんは映画の狙いをこう語る。
「彼女たちが口をそろえて言っていたのは、“少年院の中で初めて信頼できる大人に会った”と。女子の場合、少年院に入ったことで、救われたケースがすごく多いんです。少年院を出たと聞くと、社会からは“すごく悪いやつ”という目で見られるけど、そういう現状をまず知ってほしいです」
静岡県立大学教授で犯罪学が専門の津富宏さん(59)は、「これだけのクオリティーで、子どもたちの生の声を映像で伝えたのは初めて」だと評価する。
「少年院の子どもたちと日々接している法務省は、個人情報保護を気にするあまり、子どもたちの本当の姿を世間に知らせていなかった。NHKが以前、男子少年院を撮った番組でも、焦点が、子どもの声を伝えることより、職員の仕事ぶりに当たっていました。
すえこさんの映画が公開されることで、犯罪歴のある人の受け皿が急に増えることはないとしても、この映画は長期的には意味がある。かつて“見えない化”されていた障がいや貧困の問題と一緒で、真実を知らせる人がいることで、社会は揺さぶられていくので」
津富さんは元法務官僚で、『セカンドチャンス!』を設立し、初代の理事長を務めた。10年前、すえこさんに声をかけたのも津富さんだ。
「すえこさんが自伝を出した直後で、ちょっと、目立ちたがりの人かなと思った(笑)。『セカンドチャンス!』で活動したり、映画を作るためにいろいろな人の力を借りたりする中で、彼女自身がすごく成長したんだと思います」
寂しかった幼少時代
すえこさんは1975年、埼玉県東松山市で生まれた。父は自称、大工。ほとんど働かず、昼間から酒を飲んでは暴れた。母は16歳で19歳の父と結婚。祖母の食堂を手伝い生活を支えていた。すえこさんの上に11歳、8歳、4歳離れた姉がいる。末っ子だから、すえこと名づけられた。
「小学校に入って、ほかのお父さんは昼間働いて家にはいないと知って、“あ、うちは普通じゃないんだ”と。お母さんはぶたれたりしていたので、夫婦喧嘩の内容はわからなくても、お父さんがおかしい、嫌だなと思っていました」