別の人生を夢見ていたのか
上東さんは、亡くなった男性にについてこう語る。
「亡くなった男性が会社で目立った存在だったり、重要な役職に就いていたりすれば、少なくとも1日や2日で遺体は見つかったと思う。病気じゃないかとか、心配して訪ねてくるような関係があるような人だったら違っていた。だけど、そうじゃなかった」
同僚によると、仕事ぶりはいたってまじめだったが、会社の中では目立たなくおとなしい性格の男性だったという。
「20代という年齢を考えると、部屋にはもっと物が多くてもおかしくない。しかし彼の部屋は殺伐としていて物が少なかった。自己啓発系の本があることからも、本や漫画を通して、本当の自分とは何かを探していたのかもしれないね。彼は、いま自分がやっている仕事ではなく、どこかで、別の人生を夢見ていたのかもしれない」
朝はコンビニでパン、昼は現場で弁当、夜はカップ麺などの加工食品という質素な生活を送っていて、冷蔵庫を見ると、自炊した形跡は全くなかった。
「現場作業員は、男性が多いよね。より強い者、誰よりも強そうに見える者が評価されやすい。もしかしたら、そんな中で自らの性格との葛藤を抱えていたのかもしれないね」
社長は、作業が終わると動揺した様子でガックリと肩を落としてうなだれ、こう言ったという。
「こんなことが起こったのは、今までで初めてだよ。もっと早く気づいて、彼の死に思い至っていたらと思うと本当に、悔しいよね。もうこれ以上、誰もうちの社員を死なせないよ。社員寮の生存確認を徹底するようにする」
そうして腕で涙をぬぐっていた。
近隣住民の「怒り」は『近隣対策費』で解決
しかし、このように、涙を流して悲しんでくれる人がいるのはまれなケースで、恵まれているほうである。孤独死の現場では、遺族にとって疎遠だった「ほぼ他人」ともいえる親族の後始末は迷惑でしかないからだ。
取材で知り合ったある特殊清掃業者は、『近隣対策費』という費用を別で計上している。それほどまでに、孤独死は近隣住民からの反発が強いからだ。近隣住民に頭を下げて、まるで自分の親族が迷惑をかけたかのように、腰が低い営業マンのように、一軒一軒とインターフォンを押して、作業の開始を告げる。
特殊清掃業者は、ときとして大家に怒鳴られたり、近隣住民に敵意を向けられたりする。近隣住民にとっては、強烈なにおいの「迷惑」な発生源でしかない。孤独死の代償は、「怒り」という表出の仕方をする。どこにもぶつけられない怒りの矛先──。
無縁社会のつけである周囲の負の感情は、『近隣対策費』の上乗せによって、皮肉にも金で解決するというわけだ。