映画をを陰で支えてきた柴又の名店
記念館同様、山田監督らがサミット後に向かったのが、この高木屋老舗。シリーズ撮影の際には出演者やスタッフ、またエキストラの控室や待機所として店舗を貸し出すなど、陰ながらロケを支えてきた。
「今回の新作撮影でも山田監督に倍賞さん、吉岡(秀隆)さんたちがいらっしゃいました。2階の部屋や向かい(同店)のお座敷など、撮影の際はもう貸し切りです(笑)。季節と体調に合わせた、私どもにできる限りのお食事を用意させていただいておりました」
とは、6代目女将の石川雅子さん。渥美さんがいつも座っていた“予約席”に案内してもらうと、こんな人柄を感じさせるエピソードも。
「渥美さんの奥様から伺った話ですが、ご家庭ではお仕事の話はまったくなさらなかったそうです。でも、朝ご飯を召しあがらずに出かけるときは、奥様も“今日は柴又で撮影があるんだな”とわかったそうです。
先代(の女将)は“食べないと力が出ない”という考えで、朝お見えになったらすぐに食事を出していました。“食べなかったら申し訳ない”という渥美さんのお気遣いだったのかもしれませんね」
この木屋老舗が並ぶ参道や、柴又の町並みは昨年に都内初の国の重要文化的景観に選定されている。
かつては各店舗で建て替えの話もあったそうだが毎年、映画の撮影があったからこそ守られ続けた景観だとも。まさに寅さんが残した“財産”と言えよう。
そして旅の終着点として訪れたのが、京成線柴又駅前に立つ『フーテンの寅像』。『さくら像』に見送られて旅に出ようかという寅さんだが、雪駄をはいた左足だけが妙に光っているのに気づく。と、思ったら観光客がその左足を触っていくではないか!
ここで記念館入り口の寅さん像を思い出してほしい。落ちた雪駄は右足のもので、左足の雪駄は落ちていない。つまり「寅さんの左足を触ると運気が落ちない、ご利益がある」とされたことから、みんなに磨かれて光っているのだ。
まるで全国各地にある神仏像のよう。そう、葛飾柴又に笑顔をもたらす寅さんは、今も生きる神様仏様なのだ!
取材協力/葛飾柴又寅さん記念館 (c)松竹(株)
柴又神明会、柴又帝釈天(経栄山題経寺)
葛飾区観光フィルムコミッション