若い力で一気呵成に進めてきた

 出演者の多くは中国人でエキストラ計700人。現地の俳優27人は3回に分けてオーディションを行い、主要な登場人物には、テレビ電話などを使ってオファー。撮影スタッフも約9割が中国人で構成されている。

「制作に向けて去年の夏ごろからコツコツ準備をしていましたが、中国の人たちは、撮影開始の3週間前くらいから一気呵成(かせい)に進めていくんです。“現場力”がすごい。

 国民性の違いですかね。中国では制度もしばしば変わるので、臨機応変に生きる力が備わっているようです。若く、優秀な人も多かったです。なかには21歳とサバを読んだ19歳の青年が現場のスタッフを束ねていました(笑)」

 8K作品ならではの映像美は見どころ。衣装、小道具の隅々までこだわっていて、73分の作品に制作費も相当かかったのでは?

「連続ドラマ5回分くらいで、意外にコンパクトです。キャスト、スタッフの若い力をお借りしたことも大きいかと思います」

 芥川が旅した当時の中国は動乱のさなか。清朝を倒した革命は、やがて軍閥の割拠という混乱に至り、西欧諸国や日本が上海の租界をわがもの顔で支配し、民衆は壮絶な貧困にあえいでいた。芥川が目の当たりにしたのは革命に生きる男たちと、時代をしたたかに生き抜く妓楼(ぎろう)の女たち──。

 上海ロケに日本から参加した日本人俳優は、松田と岡部たかしだけ。岡部は、上海を案内する村田役を演じている。

「偶然にも、松田さんと岡部さんは、撮影前に舞台で共演し、地方公演もご一緒されていたんです。外国人のキャストに囲まれての芝居は、心細かったと思います。

 でも、直前の共演経験で信頼関係が生まれていたかと思うので、お互い精神的に救われていたのではないでしょうか。今回、岡部さんは中国語を初めて勉強したそうですが、以前、中国人のコントをしていたそうで、とてもリアルです」

 映像美と画面の迫力がある作品だが、気楽に見て楽しめるという。

「今作は、演出の加藤拓が原案を読んだときに、自分が若いとき初めて海外を旅したときの驚き、いきがった感覚を思い出したというところから始まっています。

 現代とは海外旅行のハードルの高さは違いますが、芥川の目線を通して、100年前の上海を旅してください。今に通じる要素もたくさんありますので、何かを感じていただけたらうれしいです」

芥川が心を通わす、男娼のルールーに注目!
耳が不自由な男娼・ルールー (c)NHK
耳が不自由な男娼・ルールー (c)NHK

「ルールー役の薛薛(シュエシュエ)は、『さらば、わが愛/覇王別姫』などの名作で知られるチェン・カイコー監督が学長を務める映画大学の1年生。難易度の高い大学で、受験者1万人のうち、合格者はわずか13名。

 そのなかのひとりというだけでも薛薛の実力はおわかりいただけるかと思います。映像などの出演経験はありませんが、青田買いのつもりで決めました(笑)。日本で人気の出そうなやさしい顔立ちをしていますので、ご注目ください」(勝田P)