以前から記事体広告(記事の体裁でありながら、実際には広告であるというもの)を、広告の表記なしに掲載する雑誌やウェブサイトが問題にはなっていたが、ブロガーの事例で問題になったのは、情報拡散力のある個人を通じた「口コミ」であることだった。
今でこそインフルエンサーという言葉が、一種の職業のように捉えられているが、当時はただの自発的な発信者だ。企業と個人が結びつくためには、間にキャスティングを行う会社が入るようになり、いわゆる「ステマ」の温床が生まれた。キャスティング業者がPR効果を最大限に高め、クライアントの満足度を高めて売り上げを伸ばすために「ステマ的な手法」に手を染める業者が現れたからだ。
これが企業同士ならば、相互にコンプライアンス意識も働いただろうが、最終的な情報を発信するのが個人ともなれば、そこまでの考えが及ばないことも多い。しかし現実は厳しい。発信者が一個人であろうと優良誤認を誘う発言には厳しい目が向けられた。
ステルスマーケティングという言葉が知られるようになってくると、口コミを隠れ蓑に事実上の広告がばらまかれた結果、関係各所すべてが傷を負うようになったのだ。
PRを依頼する企業のブランドイメージ、PRを計画した代理店のプランナー、情報発信を行った当事者。ステマ情報にまんまと乗らされた消費者はもちろんだが、いわゆる“ステマ行為”には、どこにも受益者がいない。このことは、おそらく広告やPRビジネスを行っている事業者ならば、誰もが「頭の中では」理解していることだ。
「広告」「PR」表記は重要なタグ
2000年代、日本のブロガー向け口コミマーケティングサービスが始まったころ、筆者はあるベンチャーが行っていた家電製品の口コミサイトのイベントで、何度か講演をしたことがあった。
メーカーが発売する新製品の情報提供をブロガーに提供するため、製品開発・設計担当者とのミーティングや貸し出し管理などを行う一方、一切の報酬の禁止(イベントへの交通費のみ支給)を徹底した点に感心した。
「口コミは“そのジャンルの製品が好きな人”が自発的に語るからこそ価値がある。口コミマーケティングとは、そんなブロガーに“正しい情報”と“作り手の思い”を伝えることであって、その結果、どのような評価をされても受け入れるべきだ」
正しい情報を伝え、それでも酷評されるのであれば、商品やサービスを開発した側に問題があるのだから、提供企業側は商品改善の糸口として受け入れる。創業者はそのように話していた。ステルスマーケティングを「疑われないよう全力を尽くす」ことこそが、口コミによるコミュニティを成長させるために必要だったからだ。
同様の考えを、Instagramを中心にしたインフルエンサー時代に徹底しているのがLIDDELL社長の福田晃一氏だ。福田氏は芸能事務所・ツインプラネットの共同創業者だが、ある事件をきっかけにインフルエンスマーケティングに傾倒し、ツインプラネットからインフルエンス事業を買い取る形で独立した。
ある事件とはタレントの小森純さんが、ペニーオークションに絡むステルスマーケティング事件に巻き込まれたことだ。詳細はここでは省略するが、小森さんが、長年の付き合いがあったスタイリストから頼まれ、ペニーオークションに出品されていた商品を購入していないにもかかわらず、虚偽の落札報告を書き込んだことが、投稿から約2年を経過した頃に発覚。活動自粛へと追い込まれた。