無名の存在が革命を起こす
7番目に登場したミルクボーイがさらなる嵐を巻き起こした。
彼らはこれまでローカルなネタ番組にもほとんど登場したこ
「今、ベルマークをいただきました」
という、牧歌(ぼっか)的なセリフでつかみを成功させ、そこから、おかんが忘れたものが「コーンフレーク」かどうかということだけでネタを展開していく。「コーンフレーク」というワードを30回以上も繰り返しながら、テンポのいいやりとりに、センスのいいツッコミワードが飛び出て、どんどん笑いが大きくなる。
会場が揺れるような、この日いちばんの笑いが起きた。
結果、681点。
M-1史上、最高得点。客席からどよめきが起きる。
「行ったり来たり漫才とでもいうんでしょうかね。揺さぶられたなぁ。これぞ漫才というのを見せてもらった感じがしました」(松本人志)
この時点で1位ミルクボーイ、2位かまいたち、3位和牛。関西で芸歴をスタートしたこの3組がファイナルステージ進出か! と思われた。
ところが、これで終わらないのが今回のM-1の恐ろしいところだった。
最後の出番で大どんでん返し
9番目出場となったインディアンス。
天真爛漫に田渕章裕がボケまくり、メガネのきむが翻弄されるというスタイルはファンも多く、優勝候補の一角と目されていた。
しかし、結果は632点。
実は、あまりの緊張でボケを仕掛ける田渕のほうが「頭が真っ白になって、ネタをとばした」らしく、ツッコミのきむが「途中であやまることになるかも」と心配するほど、切迫した状況だったらしい。それでもやりきり、なんとかまとめたところが、多くの舞台を踏んでいる地肩の強さだ。
この時点で、ファイナルステージ進出候補は変わらず。最後のぺこぱを残すのみとなった。
最後の出番となったぺこぱは結成11年。着物を着たり、ローラースケートを履いたり、いろんな漫才の形を模索。『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系)の企画・コーナー「おもしろ荘へいらっしゃい!」で優勝したが、そこからも所属していた事務所のお笑い部門が閉鎖されたり
松陰寺太勇はブルーのアイシャドウに目張り、逆立て髪型で、頭を振って登場。M-1にはふさわしくないキャラクター漫才かと思わせておいて、個性あふれる新しい漫才を展開。本当は怒ってツッコミをするところ、相手を受け入れるポジティブな発想転換していく。「キャラ芸人になるしかなかったんだ」という心の叫びまで飛び出し、最後もドカンとウケて仕上げた。
「最初は私の大っ嫌いなタイプの漫才だと思ったんですけど、見ているうちにどんどん好きになっていった」(立川志らく)
「これは“ノリツッコまないボケ”という新しいジャンル」(松本人志)
結果654点。会場が騒然となった。ぺこぱがファイナルステージ進出、和牛の敗退が決まった。
控室レポートをしていた麒麟・川島明がM-1後にネット配信された番組で、舞台裏の様子をこう語った。
「インディアンスが終わった時点で、和牛はファイナルのネタの準備に入った。だからぺこぱの漫才を彼ら見てなくて、席に帰って来たときに負けを知ったんです」
マイクを向けられた和牛・水田は「CM中にもう1本漫才やるんで、それで決めてもらえないですかね」と言い、川西は「そんなん無理やと思うよ」と笑顔でつっこみ、最後までコンビで漫才の形を貫いた。