ロックな少年が声楽を目指すまで

 上原さんが演じる役のひとつは、なんと宇宙人。日常のささやかな幸せを描きながら、宇宙的なスケールのSF要素をもっていることが作品の要なのだ。

「宇宙人的な立場から言わせていただきますと(笑)、“地球人はちょっと大事なことを忘れがちなんじゃない?”と。時代背景が初演当時の1988年ですから、高度経済成長を経て、バブルの時期。どんどん物質的に豊かになって、お金を稼いでハッピーになろうぜ、なんて時代なんですね。

 そんな中で、ささやかな幸せ、例えば愛する人のそばにいることとか、健康な状態で生きていけることとか、そういうことの素晴らしさを見落としがちになっていた。でも宇宙人たちの住んでいる星では、そういう些細なことこそが大事。

 逆にお金という概念がない世界なんですよ。地球の人たちは物質文明ばかり大事にしちゃうから欲が出てきて所有したがるし、それを守ろうとして誰かを攻撃したり、もっている人に嫉妬したりということになる。“でも本当はもっと精神的なものこそが大事なんだよ”というメッセージを投げかけているんです」

 パンチのある歌唱力に定評のある上原さんは、東宝グランドミュージカルになくてはならない存在。だがもともとは、ロックに憧れる歌好き少年だった。

「物心ついたころから歌うのが好きで、バンドブームがあった影響でKISSやQUEENが好きだったんです。そういう方向を目指そうと思っていたんですが、高校のとき音楽の先生が、僕の歌声を聴いて“声楽をやりなさい”と言ってくださった。

 その先生のことは、今回演じているもうひとつの役、作曲家の先生の役づくりで無意識のうちに参考にしているかもしれませんね。先生のご指導で東京藝大に入ることができたんですが、周りはエリートばかり。僕は劣等生でした。だからこそ“ここで1番をとりたい”と、オペラにのめり込んでいきました

 しかし、在学中にミュージカルと出会い、それが転機となった。

「衝撃でしたね。オペラの流れを酌んだうえで、僕がもともと好きだったロックやポップスもすべて融合された世界だったんです。違和感なく引き込まれて“やってみたい”と思いました」