ノブが「気づいた」こと

 上京したときのことを大悟は次のように振り返る。いくら番組側から求められても、自分は「しょうもないこと」は言えない。けれどノブは違う。「しょうもないこと」でも言う。求められていることをやる。ノブがそう切り替えたのは、おそらく東京に来てからだ(テレビ朝日系『金曜★ロンドンハーツ』2018年6月15日)

 実は芸人になる前、ノブはすでに挫折を経験している。高校生だったころ、自分と大悟はテレビを見て思っていた。漫才やコントは難しいけれど、司会はスター性があれば誰でもできる。だから、何も考えずに2人で文化祭の司会をした。結果は大スベり。その直後、落ち込むノブは大悟に言った。

「ヒデちゃんって、すごかったんやなぁ」(朝日放送『今ちゃんの実は…』2018年9月5日)

 もちろん、ここでいう「ヒデちゃん」とは中山秀征のことである。特別面白いわけではないけれど、なぜだかテレビにたくさん出ている。そんな芸人の象徴的な存在として、当時の中山は見られる向きもあった。けれど、ノブは高校生にして気づいてしまったのだ。凡庸に見える芸人が、実は凡庸でない仕事をこなしていることに。

 前出のように東京進出後の千鳥は、チャンスを逃し続け、特にノブは“問題児”のように扱われていた。しかしそれは、大悟が「しょうもないこと」を言って消費されずに済むための役割を積極的に背負い、凡庸に見える凡庸でない仕事を担おうとした結果だったのかもしれない。

 そこから数年後、ノブのツッコミが可笑しみを帯びはじめ、徐々に世間に受け入れられていった。消費されなかった大悟の魅力も、ノブを通じてより伝わりはじめた。コンビの信頼に支えられた好循環が回りだす。

 2人の快進撃はここから始まった。


文・飲用てれび(@inyou_te