殺された子どもの人生はどうなるんだ

 互いに依存し合う家族関係の中、がんじがらめになった当事者たちは事態を打開することができない。その最悪のケースが、元農水事務次官が40代のひきこもりの息子を殺してしまった事件だろう

「ずっと隠してきた結果ですよね。子どもが20歳ぐらいのときに何とか本人のことを考えていたら……。20、30年前にはひきこもりの概念があったわけですから、何らかの手を打てば自分の子どもが40代まで何もなくなってしまう人生を送らせることもなかった……

黒川祥子さん 撮影/山田智恵
黒川祥子さん 撮影/山田智恵
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 世間の声は元事務次官に同情的な一方、ひきこもりだった息子には厳しい。

「おかしいと思いますね。だったら殺されたあの子の人生はどうなるんだと。あまりにもすべて子どもが悪いふうにされて、妹の自殺も兄がいたから結婚できなかったからだと。家族の関係性がどうだったのかという点が裁判では全然見られていません。

 彼は本当に家族の関係性の中でがんじがらめになっていたのだと思います心が敏感な人特有の生きにくさ、生きづらさっていうのも間違いなくあったでしょう。親の側の問題点として、“子どもを手放せない母親が多すぎる”ということに尽きるのかなと思います。

 いつまでたっても子どもは自分に甘えてくる存在であってほしい。だから世話を焼くし、甘やかす。やっぱり子どもは子どもの人生を生きるべきなので、そこはもうちゃんと手放してくださいと言いたい

 ひきこもりに対して国も手をこまねいていたわけではなく、2000年代、文科省や厚労省、経産省や内閣府などは「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」を策定。2006年には、ひきこもりやニートと呼ばれる若年無業者に対して職業的自立を促す「地域若者サポートステーション(略称・サポステ)」が全国に作られます