先生の魅力は「話しやすい」
実は、片上さんは27歳のとき発症した、くも膜下出血の後遺症で左半身が麻痺している。左足を引きずるようにして歩くことはできるが、左手はまったく使えない。
そんなハンディを感じさせない、ノリのよさと明るさが、片上さんの持ち味だ。
19時に開院すると予約の患者が次々と訪れる。クリニックは約6坪と狭い。奥にある診察室までの細長い通路に椅子が数脚置かれ、座りきれない人は外の廊下で待っている。風邪やインフルエンザで混み合う内科などと変わらない開放的な雰囲気だ。
待っている患者に「片上先生の魅力は?」と尋ねると、「話しやすい」という声が圧倒的に多かった。
冒頭の吉田さんも、これまで別の病院に通っていたが、「2か所ともお医者さんがカッチリしていて冷たい印象があった」と訴える。
「メンタル的に困っているときには、行くだけで緊張しちゃって。でも、ここの先生はかたくなくて、ふわふわっとしゃべりません? もともとそういう方だというのもあるんでしょうが、たぶんポリシーとして、フレンドリーに接しようとしてくださっている感じがします」
会社員の清水里奈さん(39=仮名)は、親子3代でアウルクリニックに通っている。最初は2年半前、自分が仕事のトラブルでうつ状態になったのがきっかけだ。
「しんどかったので、ネットで検索して、いろいろ電話したけど、どこも何週間待ちとかで、ここしか受け入れてもらえなくて。病院って、どうしても抵抗があるけど、ここの先生はフレンドリーな感じで、親身になって聞いてくれるのがいいですね」
清水さん自身の症状は仕事を替えたこともあり、だいぶよくなったが、この日は高校2年生の娘を診察に連れてきた。青白い顔をした娘は、ずっとうつむき加減のまま黙っている。
「娘に関しては“知的な発育の問題ちゃうかなー”と先生はすぐ見抜いて、調べたらホンマに言うてたとおりでした。それが原因のひとつというか、やっぱり学校で周りの子とどう接していいかわからんくなって、それでしんどくなって精神面がやられたんですね。
母はここの内科で更年期とか診てもらっています。病院が好きではないけど、私とやったら来ると言うので。夜、私の仕事が終わってから、2人を連れて来られるのがいい。そこは大っきいですね」
片上さんが夜間の、しかも精神科診療所を作りたいと考え始めたのは、まだ高校生のときだ。和田秀樹さんなど著名な精神科医の本を読んだのがきっかけだった。
「勉強できひん自分に悩んだんちゃいますか(笑)。両親が医者だから、常に選択肢としてはあったし、憧れもあったけど、ホンマに学年トップやないと医学部は無理なんで。医者になりたいとは、よう言わんかったです。
めっちゃ負けず嫌いだったから、悔しかったですよ。特に思春期は大学受験という大きな転換期を控えて、不安や抑うつがすっごく大っきかったと思います」