くも膜下出血で10時間の手術
大学では体育会のテニス部と大阪大学のサーフィンのサークルに所属。思う存分、学生生活を謳歌した。
「部活あるし、金ないし、テストあるし……、でも、遊び倒してましたね(笑)」
医学部を卒業後は、大阪府済生会野江病院で研修医として働いた。
突然、人生が暗転したのは、2012年3月。研修医修了を間近に控え、友人と鍋会をしていて、頭をバットで殴打されたような激痛に襲われた。バタンと倒れ、5分後に意識が戻った。
「痛い、痛い、痛い! 救急車呼んで!」
一緒にいたサークルの女性はパニックになって叫ぶ。
「救急車って何?」
横にいた循環器内科の研修医が「大丈夫や」と言いながら気道確保してくれた。
神戸市立医療センター中央市民病院に搬送され、10時間の大手術を受けた。脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血で、発症すると3割が死亡する。再出血すると、さらに半数が死亡する怖い病気で、片上さんも入院中に再出血して死の淵まで行った。
「幸い、NHKの番組『プロフェッショナル』でも紹介された脳神経外科医の坂井信幸先生が当時は親父の同僚で、夜中に手術してくださったんです。これで、僕がいつかプロフェッショナルに出てバトンをつなげたら、めっちゃカッコよくないですか(笑)」
手術が終わり病室で目が覚めると、左半身がまったく動かない。感覚もないし、ベッドで左足を立てるとストンと落ちる─。
「ああ、終わったな」
一生車椅子だと覚悟した片上さんは、そばにいた母親に弱音を吐いた。
「やりたいことやったから、もう、ええねん」
母はこう励ましてくれた。
「あんたは運のいい子やから、いける」
大学時代のサーフィンのサークルの先輩で、現在は淀川キリスト教病院救急科副部長の夏川知輝さん(44)は見舞いに行き、あまりの変わりように目を疑ったそうだ。
「発症前の徹っちゃんはテニスもしーの、僕らと波乗りもしーの、もう毎日忙しい、イケイケの元気すぎる子やったんですよ。それが、魂が抜けたかのように放心して、病室にぽつーんと座っていて。1時間くらい病室にいましたが、徹っちゃんが発した言葉は“はい、ああ”くらいでしたから」
意気消沈ぶりに主治医も心配した。以前、同じような状態の若い患者が自殺してしまったからだ。だが、父の信之さんは「うちの息子は大丈夫」と返答したという。
「私自身、あまり悲観的にならない、楽観的なタイプですけど、息子もそんな性格を受け継いでいると思います。一時は落ち込んだけど、本人もここがいちばんの頑張り時やと思って耐え抜いたんでしょう。病気になったときは、回復しようというモチベーションがいちばん大事なので」