下宿したり親戚の家に住んだりしたが、結局、学校へは行けず留年、そして中退。18歳のとき実家に戻って、またひきこもった。
「絶望も3年間やると、底つき感があるんですよね。絶望に疲れ切ったというか。18歳も終わりごろになって、同級生は大学進学や就職をしているのに、私は中卒のままでいいのか、とも思って」
本を読みあさったり、少し外に出てみたりもした。だが、大学へ行こうとすると、また「国家にとって都合のいい国民になる」という葛藤もあった。それでも、進学以外に自分を立て直す方法が見つからなかったと振り返る。
「だから考え方を変えたんです。おもしろい人に会いたいから大学へ行く、と」
家にいると周りの人たちの目が気になる。そこで彼女は環境を変え、ひとりで東京へ向かった。高卒認定をとってそのまま大学受験に突っ走るつもりだった。
自立しなければいけないと悟った日
「19歳で東京に出てきて、ひとり暮らしを始めました。とにかく匿名性がうれしかった。真っ昼間、外出しても近所の人だって誰も気にしない。こんな世界があるのかと開眼しました」
高卒認定はその年のうちにとり、予備校にも通い始めた。そこで2歳年上の予備校生と恋に落ち、彼の実家で一緒に暮らすことになる。
「彼の親は、私の事情を知って心配してくれたようです。ご両親にはよくしてもらいました」
だが彼女はカルチャーショックを受ける。彼の両親はともに大卒で教養があった。本棚にはたくさんの本が並び、一家でクラシックやジャズを聴く。自分の実家とは文化度が違う。しかも、彼女は「嫁のような」立場。彼の実家の暮らし方に合わせるしかない。
「ここで彼の子どもを産めば立場は強くなる。その決定権を握るのは私だと考えたとき、ハッとしたんです。自分の立場のために子どもを産もうなんて、どうかしてると思いました」
彼女にとって、この経験は「まずは自立するべきだ」という確認になった。やる気が低下していた彼の尻を叩いて勉強させ、翌年、彼を無事、合格させた。そして彼女は彼との関係を保ったまま実家へと戻る。なぜ彼を先に合格させるべく叱咤激励(しったげきれい)を続けたのかについては、「今となっては謎(笑)」だそう。
女性には誰も「女とはこうあるべき」と刷り込まれた価値観がある。その価値観が彼女にそうさせたのではないかと思ったが、彼女はすでにそれには気づいていた。その価値観を認識したうえで、「自分らしい生き方」を模索し続けてきたのだという。
実家に戻ってようやく受験に本腰を入れた。自分のためだけに勉強しようと本気で思えたのだ。そして翌年、慶應大学に合格。若い新入生にキラキラしたものを感じたが、演劇のサークルに入り、自分を表現する術を身につけていった。前の彼とは別れ、大学の先輩と恋愛もした。