上司のパワハラでフラッシュバック
就職活動を始めたとき、彼女は26歳。面接ではひきこもっていたことも堂々と話し、とある大企業に採用された。
「同期が1000人もいるような会社でした。おもしろい人がいっぱいいて楽しかった。4月に入社して6月まで研修で、それから本格的に仕事を始めて。9時、10時まで残業ということもあったけど、頑張れると思っていた」
ところが9月に母がくも膜下出血で倒れ、生死の淵をさまよう。行ったり来たりの生活を続け、とうとう体調を崩したが休暇は認められなかった。
「産業医に診断書を出してもらったんですが、上司は、“妊娠じゃないよね”“将来に響くよ”と。“明日、出社しなかったら家まで迎えに行くよ”と言われました。そのとき、不登校のころに先生が来てパニックになったことを思い出して……行けないのに行けと言われてつらくてたまらなかったあの時代を」
なんとか帰宅し、「自分でも聞いたことのないような声で」泣いたという。尊厳を損なわれたとはっきり感じた。今まで頑張っていろいろなことを乗り越えて人生を立て直したのに、その努力を踏みにじられた気持ちだったのではないだろうか。
不登校の経験をもつ者を入社させるなら、それについて上司は少しでも勉強するなり医師の判断を仰ぐなりしなければ、彼らは人生で何度も傷つけられることになる。
夫から言われた言葉がずっと頭に残って…
うつ病と診断された彼女は、休職して9か月ひきこもる。その期間に、付き合っていた先輩と結婚、猫を飼った。
やっぱり不登校者やひきこもりはダメだと言われたくない一心で、彼女は必死に自分を立て直そうとしたのだ。
「ごく普通に接してくれた夫も、うつ病に深い理解があるわけではなかった。“現実に職場にうつ病の人がいたら迷惑だからね”と言ったことがあって、その言葉がずっと頭に残ってしまったんです」
その後、復職して頑張ったが、月に1度くらいはどうしても出社できない日がある。PTSDの症状だったが、当時は、そのことを知らずに苦しんだ。2年後、新任の上司からも「周りはあなたをよく思っていない」と言われた。サボっているわけではないのに周囲から悪く思われていることに大きなショックを受けた。さらに先輩が異動して、仕事の負担が倍になり、ついに緊張の糸が切れた。