しかし、冒頭の自営業男性は「マスクをして電車にもバスにも乗った。仕事を休んだら収入がなくなってしまうので」とバツが悪そうに話す。
無症状のまま感染拡大のおそれ
医師でNPO法人『医療ガバナンス研究所』の上昌広理事長は、PCR検査の対象を感染の疑いがある重症者や濃厚接触者などに絞り込んでいることについて、「世界中で日本だけ特異な状況」と指摘したうえで次のように語る。
「病院に検査希望者が殺到して機能しなくなるのが心配ならば、病院で検査しなければいいだけのこと。陽性反応が出た軽症者まで病院に来られては困るのであれば、“軽症者は来ないでください”と言えばいい。検査できない理由を探すのではなく、できるように知恵を絞るべきです」
“隠れコロナ”には大きく4パターンあると考えられる。
(1)無症状で感染に気づいていない
(2)疑わしい症状があるが検査していない
(3)仕事を休めないなどの理由から感染疑いを隠している
(4)検査でたまたま陽性反応が出なかった
─というもの。検査態勢を充実させれば「(2)」は減らすことができるはずだ。
上理事長は、こうした隠れ感染者の実数を読むには、感染者を続出させた横浜港の大型クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』のデータが参考になるという。
「クルーズ船のケースは、実験ではないけれども完全にコントロールされた“きれいなデータ”です。PCR検査で陽性と出た人の約半数に症状がありませんでした。クルーズ船の乗客には高齢者が多く、若年層よりも症状が出やすいと考えられる。
一般社会では若い人も多いし、無症状のまま感染を広げるおそれがある。何らかの自覚症状がある人ですら全員が検査できていないわけですから、公表されている感染者の倍にあたる3000人規模ではおさまらないのではないか。背景には1万人から数万人の“見えない感染者”がいてもおかしくない」
感染が広がる中、企業や従業員もまた戦々恐々としている。大手広告代理店は感染者が出たことを理由に本社従業員5000人の原則在宅勤務を決断。ほかにも、感染者が出た商業施設や飲食店、スポーツジムなどが一時休業して全館消毒するなど対応に追われた。
経済ジャーナリストの荻原博子さんは、
「感染者が出ても認めたくない企業もあるでしょう。中小・零細企業の従業員は“私はコロナかもしれない”と会社に言いにくいはず。業種にもよりますが、大手と違って自転車操業の企業も少なくないし、もし2週間も休業するようなことになれば倒産も現実味を帯びますから」
と説明する。