10代が抱える生きづら

 何が自殺の引き金になっているのかは人それぞれだが、

「予定があっても、恋人がいても、家族との仲がよくても、自殺のストッパーにはならない。それとは別次元のつらさを抱えているからです」

 と渋井さんは10代が抱える生きづらさを指摘。前田室長も分析する。

「思春期はホルモンバランスの関係もあり、ただでさえ不安定な時期。そこに虐待やいじめなどのトラウマが重なってしまって、“死ねばそれらの苦しみから解放される”と思い込んでしまうと自殺のストッパーはかからない」

A子さんの自殺直前の投稿。アカウントは削除されているが彼女にあてたメッセージは今も続く
A子さんの自殺直前の投稿。アカウントは削除されているが彼女にあてたメッセージは今も続く
【写真】A子さんが生前にSNSで残していた「生きづらさ」

 自殺者が残したSNSの投稿や動画は、運営会社が削除してもまた別のところでアップされ、ネット上に残り続ける。拡散に手を貸すのは、見ず知らずの第三者だ。

自殺者を第三者が撮影したり、配信された動画や画像を拡散する行為も止まらないでしょう。目の前で事件が起きたら撮影したい、と思うのは人の心理」(渋井さん)

 次のような危惧も明かす。

「動画を見た人、自殺を撮影した第三者が精神的なダメージを受けることは考えられます。拡散しないまでも、自分のスマホにその現場を保存することで負い目を感じる。拡散された動画を見てしまうことで、同じ境遇の人が死に引っ張られる危険もあります」

 自殺予防について研究をしている和光大学の末木新准教授(臨床心理士)も、

「死にたい人、死にたいが特定の方法を準備しているわけではない人が自殺の方法を具体的に知ることでその方法を取ってしまう可能性が高くなる。それが『ウェルテル効果』です。『ウェルテル効果』は、国や地域、時代が変わろうが普遍的に起こるものです

 例えば自殺報道やドラマ、映画、芸能人の後追い自殺などがそれにあたる。対策として末木准教授は、

「そうしたことが起きない環境をつくることはとても大事なこと。いちばんは“見ないこと”。そして“拡散しないこと”。SNSで拡散する行為は拡散した本人も何らかの影響を受けるし、拡散された相手も影響を受けます」

 と、自殺配信と関係を持たないことを訴える。