さらに、この番組ではこんな話もしていた。

『ガラスの仮面』に影響受けてたからね。そういう意味で、お芝居に興味はあったんだけど

 美内すずえのマンガ『ガラスの仮面』(白泉社)は演劇と出会って覚醒する少女の物語。ヒロインはイジメなどを乗り越えながら、役に憑依する才能を持つ女優へと成長していく。水野もその姿に自身を重ね、未来を夢見たりしたのだろう。

 また、小6から中1にかけて彼女は少林寺拳法を習い、それがのちにアクションに取り組むきっかけとなった。舞台で身体を張り、振り切った芝居をするようになる原点がこの時期だったのである。

 そんな怪演女優としての資質を見抜いたのが、放送作家で脚本家の鈴木おさむだ。舞台を見て「普通の女優だったらやらないことをやる」と感心。'17年の『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)で、クローゼットに隠れて夫の浮気現場を押さえ「ここにいるよー! 見てたよ~!」と言いながら飛び出すシーンなどを演じさせた。出演当時、彼女が妊娠中だったことも話題になったものだ。

 そして、昨年の『坂の途中の家』(WOWOW)には、生後8か月のわが子を風呂に落として虐待死させた母親役で登場。平凡な女性像にこだわらないからこそ、そこから逸脱した女や人間の妄執のようなものも彼女は表現できるのだ。その怪演がさまざまな人の心を揺さぶるゆえんだろう。

 とはいえ、昨年には子育て本も出版するなど、よき家庭人の一面も。その演じ分けも見事だ。今回のドラマ『M』での怪演については、

驚くほどの反響をいただき、おののいております

 と、コメントしている。彼女がおののく以上に、視聴者をおののかせるような怪演をこれからも期待するとしよう。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。