榎森のお笑いのスタイルは“誰も傷つけないお笑い”と紹介されることが多い。
「そういった言葉がひとり歩きしちゃっているかなって。僕の言葉で傷ついている人はいるだろうし、少なくとも、安倍総理は傷ついているんじゃないかと(笑)。
ただ、動画の中ではいろいろな目線、考え方を想定して、そこに対して気配りした言葉を入れるようにしているので、そういう部分を評価していただいているのかなと思います」
今はコンプライアンスが厳しい時代。ネタの中に人を傷つける表現があると、悪気がなくとも、すぐに批判の声が上がる。
「昔はネタ作りがおおらかでよかった、と言う方もいます。でも、昔のおおらかさの中に埋もれてしまっていた人の声というのもあると思うんですよ。それがSNSなどで表に出るようになってきた。問題意識を共有できる人が増えてきたことなのではないでしょうか。
このことで窮屈になってきたと感じる人がいるのは僕はむしろ健全な部分があるのかなと思います。本当に面白いものって、差別的とか誰かを下に見たりして、その落差で笑いをとるものとは違うところにあると思います。自分もさんざんそんなお笑いに手をつけてきたので、自戒の念も込めて“本当の面白さ”を自分なりに追いかけたいです」
批判を受けても時事ネタ続けるワケ
ネタとして社会問題や時事ネタを扱うと、反発するコメントや批判も多くなる。榎森も例外ではなく、さまざまな声が飛び込んできたという。
「もちろん、批判コメントはたくさんいただきます。でも、それ以上に“私もここに問題意識を持っていました”とか“あなたはこう言っているけど、こういう考えもあります”と建設的な意見をいただくことで僕自身が気がついたりすることもあるんです。なので、マイナス部分よりプラスのほうがはるかに大きいと感じています」
社会ネタのお笑いといえば『爆笑問題』や『ザ・ニュースペーパー』といった先駆者がいるが、芸能界で政治に関する発言はあまり聞くことがなかった。
「その原因は、世の中では、政治のことを話した時点で“イタいやつ”という空気になる風潮がベースにあると思います。芸能人だと賛否両論を生んで、“否”の人たちがその芸能人のスポンサーになっている企業のイメージを下げるようなことをするので、発言してほしくないという背景もありますよね。
でも、若者の政治離れや選挙時の投票率の低さに問題意識を持っているなら、その若者に対して絶大な影響力を持つ芸能人が自分のリスクを顧みずに、世の中のことを伝えてくれるのはありがたいことだと思いませんか?」
確かに、安倍政権が進めていた検察庁法改正案に対して抗議の声を上げた芸能人が多くいる。その言葉がきっかけになり"民意”といううねりを生み、与党が今国会での採決を先送りにした要因のひとつともいえるだろう。