ここで知ってほしいのは、なぜ「給付金」というワードを使うのか、ということ。光あるところに影ができるように、騙す側は言葉の裏面性をついてきます。「給付金」の表側には「お金がもらえる」という、うれしさがありますが、その裏には「不給付」が存在します。

 つまり、「キャッシュカードを新しいものに変えなければ、もらえるはずの給付金が、受け取れなくなる」と不安を煽る方向に話にもっていくことができる。先にも話したように、「混乱」や「不安」は詐欺を行う上での重要なファクターです。心の動揺を引き起こされた人はパニック状態に陥り、騙されてしまうのです。

 このほかにも、申請書類にまつわる詐欺はいろいろあります。

「市役所職員が特別給付金の書類を持ってうかがいます」という電話がかかってきたり、給付金の申請書が入った封書を投函したあとに、市役所職員を騙った女性が家を訪問してきたという事例もありました。

 このときは、家人は怪しいと思って対応したので、ことなきを得ましたが、相手の話を聞いてしまえば、申請の名目で手数料を騙し取られる可能性もあります。申請書が届かない人たちは、「いつ、くるのだろう」と思っていますので、つい話を聞いてしまいがちで、詐欺の方向に誘導されやすいのです。

SNSの書き込みにも注意!

 では、申請書が届いていた人の場合はというと、詐欺師は別のアプローチをしてきます。たとえば、「申請書類の書き方を教えます」と電話をかける。また「最近、記入ミスが多いので、内容に間違いがないか、チェックします」と、個人情報を聞き出されることもあるでしょう。ときに、申請書が届くタイミングで電話がかかってくることもがあるかもしれません。

 詐欺師はなぜ、申請書類が家に届いたのがわかるのか。それには、SNSの存在が大きく関わっています。SNSでは「申請書が届きました」という書き込みをよく見かけますが、詐欺師もそれを見ており、その情報をもとに詐欺の電話をかけることも充分にありえるのです。

 また、給付金が振り込まれたあとも油断はできません。

 先日、詐欺師が利用しそうな心配なニュースが入りました。寝屋川市で、2000人以上に給付金を二重で振り込んでしまったというのです。本来ならば、詐欺の対策として、「入金後、市役所が給付金の振り込みに関して、電話をかけることは絶対ありません」と言いたいところですが、こうした役所のミスがあると、給付金の返還依頼で連絡をすることは考えられるので、役所が電話をかけないとはいいきれないのです。

 今後、詐欺師がこうした事象に便乗して、「二重給付の可能性がありますので、振込みの確認をさせてください」と電話をかけてくる恐れもありますので、この言葉もぜひとも頭に入れておいてほしいと思います。

 二次補正予算には、雇用助成金の増額や家賃の支援などの経済対策が盛り込まれています。今後も詐欺師が「特別にあなたは給付が受けられることになりました」と言ってくるケースや、「給付金」を「助成金」に置き換えて詐欺の電話をしてくることでしょう。

 みなさんが置かれた状況は、ひとりひとり違うと思います。ですので、どんな詐欺が、どのようにして自分の身にやってくるかを、自らの事情に合わせた形で考えて身を守ることが大切なのです。

多田文明<ただ・ふみあき>
1965年生まれ。詐欺悪徳商法に詳しいジャーナリスト。ルポライターとしても活躍。キャッチセールスの勧誘先など、これまで100箇所以上を潜入取材。それらの実体験を綴った著書『ついていったらこうなった』はベストセラーとなり、のちにフジテレビで番組化。マインドコントロールなど詐欺の手法にも詳しい。そのほか『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』など多くの本を出版、テレビやラジオ、講演会などへの出演も。