最愛の父が最期に残した言葉にハッとして、我慢だらけの結婚生活に終止符を打った。50代で別居、海外留学を決意。帰国後、60代で日本初のシニアチアダンスチームを立ち上げた。ポリシーは、好きなものを好きなだけ楽しむこと。自由闊達に生きる彼女は、自分も仲間も観客もみんなハッピーにしてしまうダンスを全力で踊り続けていた。

 

シニアでもチアができるの?ウソでしょ

 新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言は解除されたが、すぐには今までどおりの生活に戻れない。

 本稿でも“密接”を避けるため、思うように取材できない日々が続いている。そこで、以前『人間ドキュメント』に登場した方のなかでも飛びぬけて前向きな滝野文恵さんに、自粛生活を元気に乗り切る秘訣を伺ってみた。

 滝野さんは現在、88歳。米寿を迎えたが、パソコンを使ったテレビ電話での取材依頼も躊躇せず、「幽閉された女王みたいで、ほとほと嫌気がさしていたから、こういう新しいことをやるのは楽しいわ」と笑う。

 2年前に掲載した文章に、近況を加えた特別編でお届けする。

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 日本最高齢のチアリーダー、滝野文恵さんが63歳でチアを始めたきっかけは、たった2行の英文記述だった。

 アメリカ・アリゾナ州サンシティに、平均年齢74歳のチアリーダーグループがあると書いてある。

「エ! シニアでもチアができるの? ウソでしょう。もう心底おったまげて(笑)。どんなことをやるのか知りたくて、すぐに手紙を書いたんです」

 名前も住所もわからなかったが、封筒に郵便番号、グループ名、リーダー様とだけ書いて投函した。

「それが、届いたんです。リーダーさんが長年、郵便局に勤めていた人で、彼女のことじゃないかって。もう、奇跡!だから、道は開けているのよー。願っても、願っても、一歩踏み出さなかったら何も起きないけど、私は自分でラッキー、ラッキーと思って動くから、どんどんラッキーなことがやって来るの。思えば、来るのよ! アハハハハ」

 大きく身ぶり手ぶりを加えながら早口で言葉をつなぐ。表情も豊かで、まるで年齢を感じさせない。

 滝野さんの手紙を受け取ったリーダーは筆まめな人で、すぐ返事がきた。文通が始まると、キラキラの衣装でポーズを決めた楽しげな写真がたくさん届いた。

「よし、これをやろう!」

 滝野さんは友人たちに声をかけ、'96年にシニアチアダンスチーム「ジャパンポンポン」を5人で結成。23年目に入った'18年には32人まで増えた。