人生を賭けたメジャーデビュー
しかしエージェントはこうも言った。
「スティーブは、すごく厳しいし、好き嫌いがはっきりしている。だから、どんなに僕がゴリ押ししてもダメだったらダメ。自分のキャリアに泥を塗るようなことはしない人だから、そこだけは覚悟しておいてください」
堀澤はスティーブの自宅に呼ばれた。怖い人だと聞かされ緊張していたが、実際に会うと気さくな人だった。
「まるで関西のおっちゃん(笑)。髪の毛が爆発していて、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドク博士みたいでした。でも音楽的に素晴らしい人だとすぐにわかった」
結局、堀澤はスティーブにプロデュースを依頼することに決める。
アルバム制作が決定し、'13年、スティーブはリーランド・スカラー、ヴィニー・カリウタなどの世界屈指のミュージシャン、ハリウッドのフルオーケストラを招集し、レコーディングが行われた。
オーケストラの出来は素晴らしく、スティーブは子どものように泣き、堀澤も泣いた。
アルバムタイトルにもなった『KINDRED SPIRITS〜かけがえのないもの』という曲は、ある女性歌手のためにスティーブが作った曲だった。しかし、その歌手が亡くなってしまったために、歌える歌手を探していたのだ。
「歯を食いしばって、人生本気で生きていたら必ず叶う。レコーディングの日が誕生日に重なったのは偶然でしたが、自分への最高の贈り物でした。必死にやってきて騙されたことも、全部に意味があった。これでやっと報われました」
完成したアルバムは、「近年稀に見る世界クラスの作品」と評価を受け、'14年6月25日にメジャーリリースとなった。
堀澤は、40歳にしてついに念願のメジャーデビューを果たす。
堀澤と親しい米在住の作曲家、松本晃彦さんは言う。
「僕は長期的に計画を立ててアメリカに渡ったのに、堀澤さんは未知の領域でも突き進んで実現させるバイタリティーのある人。それも飄々と。いろんな経験を糧にして歌の円熟味につなげているのがすごい。ますます進化していくタイプだと思いますね」